狂乱の渦 1
トールとロキが発った後の街には、不安が広がっていた。
龍など最初から対話せずに値しない存在だと知らしめ、それを以て、創世神<ユグドラシル>の加護を受けたはずのバルドルが龍をその場で屠ることを期待していた者たちは、そうならずにバルドルが失意のうちに死んだことへ怒りを抱いていた。
その筆頭となっているのはバルドルの母だ。彼女の慟哭は、神殿と周囲に響き渡り、「そうさせた」トールとロキへの不信感へとつながっていた。
加えて魔力崩壊の余波か、先ほど発生した今まで感じたことのない激しい地鳴りと振動に、民は冷静さを完全に失っていた。
誰かが広場で声を荒げると、呼応する声が更にひとつふたつと増えていく。いつしか、今にも戦場へと飛び出していかんとするほどに、目をギラギラと輝かせている者たちが次々と広場から神殿へ向けて集まり始める。
街を守る近衛兵たちは、拘束魔法をあちこちにかけて、彼らをなんとか押し留めていた。
「せめて、狂気に当てられ全滅することだけは避けなければならん。我々は創世神<ユグドラシル>様の守護者だ。守護者が役目を果たせなくなっては本末転倒だ。しかし、これではいつまでも持たぬな。二人が救世の糸口を掴むが先か知らん。」
近衛兵長は、この騒ぎにも関わらず一切神殿の外に出ようとしない高官たちのいる御座の方を睨んで言う。
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