理想の心 1
「体良く押しつけられちゃったわけだね。それで僕にお願いかい、トール。確かに僕は龍族ヨトゥンと同じく、氷の魔法は得意だけど。」
街外れにポツンと佇むロキの家にトールが訪れたのは、深夜のことだった。
夕日の中で見上げた、心安らいだ顔とはうってかわって、酷く疲れた様子で現れたトールを、ロキは何も言わずに招き入れた。
暖かい飲み物を淹れ、向かいに座り、これまでの顛末を聞いたロキは、わざと少し戯けた調子でトールに問いかけた。
「龍族ムスプルは灼熱の身体を持つからね。そのままだと私たちの身体が持たないことは…例の兵士の様子から既に知っているはずだ。使者をよこすくらいだ、何らかの別の姿で来るだろうが…まぁ念を入れてってところさ。」
「龍族は異種族を真似た姿を作れるんだっけ、同素体って言ったっけ」
「ああ。でも基本的に性質は変わらないって話だから、彼らは炎の魔法が得意に違いない。」
「しかしあれだけ天翼族の兵士がいて、たった一人しか帰ってこなかったのは…あまりにも酷い結果だね」
「…そうだな、戦士長として不甲斐ない。しかし命を賭して伝えてくれた龍族ムスプルの伝言は…絶対に無駄にはしない。」
理想のように現実は行かない、しかしだからこそ、理想を追い求めることをやめない。そう固く決めたはずのトールだったが、龍族ムスプルの非道な行動と、天翼族の認識の差に、幾度となく理想を砕かれていた。
心が折れてしまうほどの苦しみを、戦士長という仮面を被ることで何とか押し込めようとしていることは、ロキにも痛いほど伝わってきた。
「戦士長として、ね。分かった。トールに協力するよ。」
「助かるよ、ロキ。」
ホッと眉を開き、本来の輝きを取り戻したトールの瞳を見つめ、ロキは全く世話が焼けるといったように少し肩を竦めて微笑んだ。
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