守護者たちの睥睨 2

「ほぼ全ての龍族は己の力を絶対視し、自らの縄張りに入ったものを力ずくで排除するという、実に分かりやすい理由で動いています。しかし龍族ムスプルに限っては、縄張りどころか、こちら側に侵攻までして来ている。その侵攻を食い止める牽制策として龍族ヨトゥンに協力を仰ぐ手筈でしたが…今回ムスプルは使者を使い、交渉まで行おうとしている。つまり、彼らに今までの龍族の常識は通用しないということです。龍族だから、というこれまでの認識をこれを気に改めるべきでしょう。」

トールはピシリとした声で言い切る。


「…ふん、それはまさか私情を挟んでいるわけではあるまいな、トール?」

「龍族ヨトゥンと天翼族の間の子、ロキ…彼と仲が良いのは大変に結構だがな、表向きは両族の友好の架け橋ということになっているが、現実として、彼は龍族ヨトゥンが我らに歯向かわぬようにするための謂わば人質だ。目付役として戦士長であったお前の父親が当てられただけなのだ。」

「ロキが我々の手中にあるということは、天翼族の力は龍族と対等、またはそれ以上であるということを示している。これにより他の龍族との無益な戦いを避けられたこともあっただろう。つまり、龍族への認識を変えることは、それらが水の泡になる可能性があるのだ。」

「龍族だけではない。異種族にまで天翼族の力が矮小だと思われては、世界中を巻き込んだ戦争に発展することだってあり得るのだぞ。それは創世神<ユグドラシル>への大きな傷となり、我々は守護者足り得なくなる。」

「それでも、トール。お前は龍族への認識を変えるべきだと、そう考えるのだな?」

あくまで天翼族の考えは正しいと、ギラギラと血走った目を向ける高官たちに、トールは深い緋色の瞳の奥に、抱く甘い理想を隠して、冷静に強く頷き返した。


「では使者は戦士長トールが対応せよ。龍族への新しい認識を身をもって示せ。」

「分かっているな?失敗すれば我々も世界も終わりだ。」

「そうなりそうだと判断した時は、容赦なく貴様とムスプルの使者を葬る。それで良いな。」

「精々準備を進めるが良い。龍族ムスプルは全てを焼き尽くす灼熱の魔法を使う。先の兵士と同じ姿に成らぬようにな。氷の魔法でも使うがいい。」

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