ロキとトール 3
トールを見送り、ロキは再び黄昏時の広場に目を落とす。
それぞれの声が聞こえるほどに疎らになったそこでは、今回戦場へ出た兵士の娘か息子か、年端のいかない子どもたちが手作りの剣と盾を持って、これまた手作りなのか、粗末な龍の藁人形を攻撃していた。
「えいっ!」「やあっ!」「とうっ!」
ペシペシと軽い音を立てる彼らを微笑ましいと言った顔で眺める大人たち。
揺れるたびに人形の藁はポロポロと崩れ落ち、辺りを黄色く彩っていく。
「もう少しだ!龍族め!」
「これでもくらえ!」
すっかりボサボサになった藁人形は、ぐらりと大きく揺れたかと思うと、その場にパタリと倒れてしまった。
「やったー!倒したぞー!」「僕らの勝ちだ!」「これに懲りたら創世神<ユグドラシル>様の世界を荒らさないことだな!」
勝利に喜ぶ子どもたちは、その勢いのまま走り出し、雑踏の中へと消えていった。
ポツンと残された藁人形は、迫る夕闇に家路を急く人々の足元にただ横たわっていた。
「龍族が同じ世界に住むもので、仲良く出来るはず、なんて心から思っているのは今時分、トールだけさ。天翼族としては、龍族はこの藁人形の姿の方が正しいんだから。」
天翼族と龍族の架け橋として生まれたロキは、それ故に二つの種族を深く学び、理解しなくてはならなかった。
そうした結論として、お互いが分かり会えないということを知った。
分かり合えないからこそ、どこかで妥協点を見出すか、さもなくばどちらかを完膚なきまでに叩き潰さねばならないということも。
それは戦士長となったトールも当然知っていることだが、そんな現実を知っても尚、甘い理想を抱き続けられるトールの心の強さは、ロキにとって心地よいものだった。
「全く、トールには見せたくないな。」
ロキは広場まで下りると、横たわる藁人形をそっと拾い上げ、少し形を整えて、人に踏まれないよう、道の脇に座らせて置いた。
軽く身体を伸ばしては、ゆっくりと家路へ向かうのだった。
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