第16話
「レリアちゃん、ご飯よ」
コクリと頷き、レリアは席に座った。今日はベーコンのスープだ。肉が好きなレリアのために冬に備えて塩漬けにしていたものを惜しげもなく使ったものだった。
マリーとしては最高の一品を仕上げる事ができたと思っていたのだが、無表情にスープを口に運ぶレリアを見ていたたまれない気持ちになった。
またレリアの笑顔を見たい。その反面、心情を思えば難しいということもわかっていた。
それでも自分の料理で笑ってくれるのではと期待し、裏切られ、そんなことを思う自分に嫌気が差した。
もしかしたら美味しくなかったのかもしれない。好みの味ではなかったのかもしれない。しかし、それをレリアに聞くことは
玄関の扉を叩く音がした。扉を開けるとそこにはエマニュエルが立っていた。
「こんにちは、マリー。調子はどうだい?」
「えっと、その」
「れーりあちゃーん、あっそびーましょー」
後ろからひょっこりと顔を出したセレナは物静かなボロ屋の様子に首を傾げる。そこにレリアの姿はなかった。
「あれ? いないのかな?」
「ふむ。ランスもいないね。二人で出かけているのかな? 戻るまで待っていよっか」
「あの、えっと」
「ああ、そうだ。今夜の
「はーい」
扉が閉まり、隠れていたレリアが顔を出す。マリーは静かにレリアを抱きしめた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
太陽が赤く染まる頃、日の光とは異なる赤黒い髪の男が森奥から歩いてきた。
「なんだ。また来たのか」
「前回はお礼だったけど、今回は勧誘だよ」
「そうかよ。何度も言うが、無理だ」
「そっか。まあ、セレナがレリアに会いたいってせがむからね。それも含めての訪問だよ。一緒じゃないのかい?」
その問いには答えず、ランスは横を素通りして家へと向かった。
エマニュエルは寂しさを感じながらも追求することはしなかった。
やはり、心は開いてくれない。前回の宴で仲良くなれたと思ったのは気のせいだったのか。
さて、作業に戻ろうかと、そう思ったとき、ランスが引き返してきた。その顔は険しく、けれど、泣き出しそうだった。
ランスはエマニュエルの前で立ち止まり、頭を下げて口を開く。
「助けてくれ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
これまでの経緯を聞き、エマニュエルは、眉間に手を当てた。
「どうだ。なにかわかるか?」
「申し訳ないけど、そんな話は聞いたことがないね。オルガ! ちょっと来てくれ」
衛生兵のオルガを呼ぶ。彼女は学園で医学を中心に単位を取得していたと記憶していたからだ。
「申し訳ありません。私も、聞いたことがない症例ですねぇ」
その答えにランスは肩を落とした。
「街の医師にも聞いてみよう。我が家の抱えの医師なら、あるいはなにか知っているかもしれない」
その時、家の扉がバンと勢いよく開き、小さな影が中へと飛び込んだ。慌てて皆が追いかける。
「レリアちゃん!」
急に現れたセレナをレリアは無言で見つめた。その瞳に生気はない。
あとからやってきた大人たちは何も言えず、その様子を見ていることしかできなかった。
「あの、ね。これ!」
腕いっぱいに抱えた袋を押し付けるようにして渡す。袋の中にはカステラが入っていた。
「いっぱい食べたら治るから! 病気のときは、いっぱい食べてよく寝れば治るって、言ってたから!」
僅かに光の灯った瞳でなおも見つめるレリアはただ何も言わずに袋の中に手を伸ばし、カステラを口に含んだ。
「おいしい?」
(コクッ)
「すぐ良くなるよ」
(コクッ)
儚げに笑う彼女の姿は、以前の肉を頬張ったときの面影はなく、エマニュエルはぎゅっと胸が締め付けられた。
その後の夕食も、前回以上のものが用意されていたが、盛り上がることはなく、無理に笑う騎士たちの声が森の中に虚しく響くだけだった。
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