第4話
高校生活初日である入学式から早一週間が経過していた。本格的に各種授業が始まり、いよいよ高等学校課程を実感し始める頃合いである。互いの心的距離も次第に縮まり、級友達の多くは各々新たな友人関係を形成し始めていた。既に教室内を包んでいた新境地特有の異様な緊張感も大分薄れており、早くも新たなライフスタイルは平凡な日常へと様変わりを始めていたわけだ。
そんな中、一大問題を抱えたままそれに臨まなければならなくなった俺も、今のところは順調と言える程度には恙無く高校生活を送れていた。
というのも当初の見立て通り、如月は積極的に周りと絡むタイプの人間ではないようで、その上あの
無論まだまだ警戒は怠れないわけであるが、それでも状況は概ね俺にとって都合の良い方向に進んでおり、警報を注意報に下方修正する位には平穏を取り戻しつつあったと言えるだろう。
そんな折の事であった。
不幸な子羊に神が救いの手を差し伸べてくれたのかは分らないが、ある朝の事、俺は学校の昇降口にて自身の下駄箱の扉を開いた際、上履きの上に差出人不明の手紙が置かれているのを発見した。表に可愛らしい丸文字で「明松くんへ」と書かれた淡いピンク色の洋型封筒だった。
全く以て如何にもな手法による如何にもな手紙である。例えこうした経験が生まれて初めてであったとしても、それがどういった趣旨のものかは封を切るまでもなく直ぐに推察出来るというものだ。
俺は手紙を手に取ると中身を確認すること無く、素早くブレザーの内ポケットに仕舞い込んだ。態々こんな回りくどい方法を選択した差出人の心中を無下にする程、俺は野暮ではないからな。歓喜に我を見失い周囲の注目を集めるような愚行はしないのである。
至って平静を装い、通常の三割増で教室へと歩を進め、自席机の上に鞄を乱雑に放ると、そのままの足で男子便所、大便用個室へと向う俺。個室に入り念入りに鍵をかけて蓋の閉じられた洋式便器に腰を下ろすと、改めて懐から手紙を取り出して、封筒を無碍に破らぬよう丁寧に封を開けるのだった。
封筒の中には綺麗に折り畳まれた便箋が一枚。白地に桜の花びらのイラストが薄く散りばめられた、可愛らしくも清楚なイメージを懐く物だった。男子便所の個室で封を開けてしまった事に些か罪悪感を覚えたのはここだけの秘密である。
せめてもと思い丁寧に便箋を広げて中を拝見する。するとそこには、宛名同様に可愛らしい文字が綴られていた。
内容は以下の通りである。
あなたにお話ししたいことがあります。
放課後 ひとりで屋上に来てください。
待ってます♡
用件が簡潔に書かれた、たった三行の短文。実に淡白な内容であった。しかしながら、文末にハートマークが描かれている辺り、そういう手紙なのは間違いないだろう。であれば、そこに不満を懐く余地など有りはしないというものだ。特別軟派ではなくとも、思春期真っ只中の高校男子というのは、この手の好意に対しては至って寛容、大抵の事は笑って許せてしまう生物なのだからな。
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