第6話 故郷は
五日後、科学技術班の活躍により、バイアス、ソルジェー、その他兵装の耐冷加工が終了した。無人機も三機すべてが耐冷加工を終了した状態で配備された。
「総員に告げる。明日の明朝、五時に北極へ向けて出発する」
トーマスが指令室から基地内にいる全ての人間に向けて言う。
「この戦いが我々の勝利を飾れば、もう一度平和な世界が訪れるだろう」
トーマスは続ける。
「今までの戦いで散っていった仲間の意味をここで証明してほしい。諸君らの健闘を祈る。各自指定された時刻までは自由時間とする。各々、休養と覚悟の準備をしてくれ。以上だ」
「司令、対天使用隠密装置はどうしますか?」
ダジェスが耳元でささやく。
「起動しよう。万が一、アカリたちが負けることがあってもいいように、レミたちに無人機を造らせてくれ」
「了解」
◆
◆
「もう無理、死ぬわこれ」
「目がチカチカする……」
ラボの二人は椅子に座ったまま眠りについてしまう。そこにアカリが入ってくるが、一切気づくことなく寝息を立てていた。
「ありがとう。レミ、カップス」
アカリは、近くにあった毛布を二人に掛けると、ラボを後にした。
「ねぇ、バイアス」
『今度はなんだ』
「今までありがとう」
『何を急に』
「いや、言いたかったから」
『そうか』
「裏切るようなことしないでよ?」
『当たり前だ』
「最後までよろしくバイアス」
『務めは果たす』
アカリはバイアスのコックピットを触ると、格納庫を出ようとするが、そこにタツミがいた。
「タツミ……」
「またバイアスと話してたのか?」
「そうだけど」
「ちゃんと寝とけよ。お前が一番重要な役割なんだからな」
「分かってるわよ。言っとくけど、その私を援護するあんたも重要な役割だと思うのだけど?」
アカリは胸を張ってタツミに言い返す。
「《死神》さんを最後まで見れるなんて最高だよ」
「…………」
「なんだ? 怒らないのか?」
「別に、最後ぐらい呼ばれても良いのかなって」
「死神だぞ? 良いのか?」
「まぁ、今までいっぱい天使殺してきちゃったしね」
「すぐまた暗い顔になる。良いから部屋戻れよ」
「はーい」
そう言うと、アカリは部屋に向かっていく。
「……なぁ、バイアス」
『…………』
だが、バイアスは何も答えない。
「やっぱ無理か。まぁ良い。あいつを頼むぞ」
そう言うと、タツミも自室へと向かっていった。
◆
◆
明朝、五時、大型輸送機バハムートが三機用意され、北極へ向かう全戦力が積み込まれた。
「輸送機、離陸準備完了」
「司令のトーマスだ。集まってくれたことに感謝する。諸君らが笑顔で全員戻ってくることを祈っている」
と、トーマスは告げる。
「輸送機全機、発進せよ」
この言葉で、バハムートは順番に離陸していく。
「バハムート全機、基地防衛距離を出ます」
「対天使用隠密装置を起動。彼らの帰りを待つぞ」
◆
◆
『えぇ、こちら機長です。北極へのフライトを是非ともお楽しみください』
「全くこんな時まで呑気な人ね」
「まぁ、これぐらいの方が気分が楽になる」
◆
◆
「へっくし!」
「大丈夫ですか?」
「誰かが俺のこと噂したな」
「こんな時までお気楽でいるからですよ。きっと」
「うるせぇ、帰ったら酒飲むぞ」
「分かってます」
二人は一呼吸おいてしっかりと操縦桿を握っていく。
◆
◆
「行っちゃった」
「ですねぇ」
レミとカップスの二人は、飛び立つバハムートを見て呟く。
「あとは祈るだけか」
「ですね」
「壊されてないと良いなぁ」
「ですねぇ」
「それしか言えないの?」
「そういうしかないですよ」
「寝よっか」
「一緒にですか?」
「…………! なわけないでしょ!」
と、レミはカップスの肩を叩く。
「痛いですって!」
「このぉ!」
「ちょ、先輩!」
レミはカップスの言葉に動きを止める。
「えっ、何どうしたの?」
「あの、お話がありまして…………」
カップスが頬を赤らめる。その姿にレミも少し体強張る。
「僕、先輩のことが……」
◆
◆
現在、バハムートは北極から南西百キロの地点にいた。
「北極まで残り百キロです。ご搭乗の皆様は準備をしてお待ちください」
機長がマイクを通して言う。
「さぁ、行きましょ」
「ああ」
二人は機内にある格納庫へと向けて走り出す。
『パイロット神経接続完了。バイタル異常なし。起動プロセス3をクリア』
「バイアス、行くわよ」
『ああ』
「バイアス、起動!」
「ふぅ、ソルジェー起動!」
そして、身体的負担を減らす為、バイアスとソルジェーはすぐにスリープモードへと移行する。
数十分後、バハムートを操縦彼らの目に金色に輝く天使たちの姿と中央に聳え立つヘイローが見え始める。
「あれがヘイロー……」
「見とれるな。奴らが来る前にアカリたち下ろして離脱する」
「了解!
バイアスとソルジェーを乗せたバハムートも所定の位置に着陸する。
「行くわよ!」
「ああ!」
バイアスとソルジェーは勢いよく外へ飛び出していく。これに気づいた天使たちは二機目掛けて突っ込んでくる。
「はぁっ!」
アカリは目の前にやってきた天使を《大型剣》で切り裂き、左側面にやってきた天使をハンドガンで倒していく。
「バイアス、ヘイローまでの道を教えて」
『ちょっと待ってろ』
ソルジェーは途中でルートを外れ、高台に登っていく。
「特殊追尾弾装填」
ソルジェーは《超長距離支援銃》に追尾弾を装填する。そして、引き金を引き天使たちを倒していく。
空の上では、航空部隊がアカリたちの他にも地上部隊が天使と交戦していた。無人機も時間はかかっているが天使を確実に倒していく。
「アカリ、あまり時間かけるなよ!」
『分かってる!』
タツミは、通常武器のライフルと《超長距離支援銃》を使い援護するが、それでも戦闘機と戦車が破壊されていく。
『ヘイローまでの道筋を見つけた。表示する』
バイアスのモニターにヘイローまでの道筋が黄色い線で表示される。
「ありがとう!」
バイアスは北極の上をスケート選手のように滑っていく。その間にも、バイアスは《大型剣》で天使を倒していく。
そして、ヘイローまでもう少しというところで上級天使が全て現れる。
「邪魔しないでよ!」
すると、バイアスのバイザーが光る。それにより、アカリは数秒先の未来を視る。それは上級天使四体がソルジェーの狙撃により動きを止め、その隙にバイアスが切り裂く光景だった。
それを知ることなく、天使たちはバイアスを攻撃しようとするが、四つの弾丸が天使を襲う。動きが止まった天使をバイアスは逃すことなく倒していく。
「よしっ! ありがと!」
『早く行け。こっちは忙しいんだ』
そして、バイアスはヘイローの根本にたどり着いた。
「これが、ヘイロー……」
『そうだ。あれの根元に触れるんだ』
「分かった」
バイアスはヘイローの幹に触れると、コアを通じて信号を送り始める。
『ヘイロー、応答してくれ。ヘイロー』
『なんだ。お前は…………』
『この戦いを終わらせに来た』
『何を言う! 人間の手に落ちたクズが。終わらせる? 否、これは祝福である!』
すると、ヘイローが輝き始める。
『アカリ、離れろ!』
「えっ?」
ヘイローから金色の触手が無数に生え、バイアスを襲う。アカリはバイアスの見せる未来でなんとか回避するが、バイアスの動きより早く触手が接触する。
「きゃっ!」
バイアスは地面に落ちるが、すぐに体勢を立て直しヘイローに向かっていく。その途中で触手が襲ってくるが、それを《大型剣》で斬っていく。
「お願い、話しを聞いて!」
バイアスが再びヘイローに触れ交信を試みる。
『人間の言葉など聞く価値もない!』
「お願いだから!」
その間にも斬られた触手が再生し、バイアスへ向かってくる。バイアスは、それを《大型剣》で防ぎながら、開いたでヘイローに触れ続ける。
『どうしてそこまでする人間!』
「話をしよう! お互い分かるから!」
『黙れ!』
《大型剣》が飛ばされ、触手がバイアスに絡みつく。そして、バイアスを持ち上げ、地面に叩きつける。
「ぐぅ…………」
アカリはあまりの衝撃に一瞬意識を失いかけるが、なんとか意識を保ち、バイアスを起こそうとするが、触手が何度もバイアスを地面に叩きつける。
「きゃぁっ!」
『装甲損傷率五十パーセントを突破。危険な状態です』
「このままじゃっ……」
すると、ソルジェーの放った弾丸が触手を貫き、バイアスは解放される。
「ありがとうタツミ!」
『何がどうなってる!』
「私のことは良いから!」
そう言うと、アカリは一方的に通信を切り、《大型剣》を拾う。しかし、触手の再生が異常に早く、バイアスにまた襲い掛かる。
「はぁっ!」
アカリは未来を視ながら触手を処理していく。三度、ヘイローに触れる。
「バイアス、お願い。この先の未来全部見せて」
『良いのか?』
「私はどうなってもいい。だからお願い」
『…………分かった』
「そして、その未来をヘイローにも見せて」
『了解した』
すると、バイアスの赤い光がヘイローにも伝わっていく。その光景はヘイローたちが宇宙へ飛び立ち、遠く離れた惑星で平和に暮らす姿だった。しかし、アカリの体にも負担だのしかかり、右目から血が流れ始める。
「ねぇ、見えてる? これがあなたたちの未来」
『何? 未来だと?』
ヘイローが驚いた声で言う。
「そう。あなたたちの仲間見せる未来。私があなたたちを導くから。お願い。話を聞いて」
『我々を導く?』
「うん」
『人間如きがそんなこと…………』
「この未来は嘘じゃない。本物に私がする」
『さっきから何を言っている人間風情が』
すると、触手がバイアスに突き刺さる。
「ぐっ……でも私はあなたたちの悲しみを知ってる」
『何?』
「私たちがしたことは確かに嫌だったと思う。でも、今あなたたちがやっていることも過去にやられたことと一緒だよ?」
『…………』
「やられたことをやり返したって意味はない。謝って済む問題じゃないけど、今解決する可能性があるのに、なぜあなたたちは仲間を殺すの?」
『それは……』
「だからお願い。一緒に行こう? 新しい故郷に」
『…………』
すると、バイアスを貫いていた触手が消える。
『お前の見せた未来が本当だというのなら、一つだけ条件がある』
「何?」
『お前がヘイローになり我々を導け』
「えっ!?」
『ちょっと待て! それは……』
『貴様も天使だったなら分かるだろう』
『しかしそれは…………』
『ああ。とても人間には耐えられないだろう』
「分かった。良いよ」
『おい待て!』
「良いの、バイアス。言ったでしょ? 私はどうなってもいいって」
『しかし、お前の体はすでに……』
『貴様の覚悟、受け取った』
すると、ヘイローが輝き始め、光の粒子になる。そして、そのままバイアスの中へ入っていく。
「ぐっ……がぁぁああ」
アカリを感じたことのない感触が襲う。そして、左目からも血が流れ始める。しかし、その感触はすぐに収まる。
「えっ?」
『これでお前がヘイローとなった。さぁ、我々を導け』
すると、バイアスは天使のように金色に輝き始め空に浮かぶ。そのまま上昇していくと、下で戦っていた天使たちが、バイアスのもとに集まっていく。
「さぁ、行こう。あなたたちの新しい故郷へ」
そう言うと、バイアスはスピードを上げてどんどん高度を上げていく。
「おい! アカリ! どこへ行く!」
『ちょっと出かけてくるね』
「どういうことだ!」
タツミは《超長距離支援銃》でバイアスの周りにいる天使を狙うが、
『やめて、今攻撃したらもう戦いを終わらせられなくなる』
アカリは続ける。
『必ず帰ってくる。だから信じてお願い』
「……クソが。お前はいつも勝手なことばかりしやがる」
『ごめんね』
「レミたちにはなんて言えば良いんだよ」
『適当に言っておいて。私が天使になったなんて聞いたらきっと……』
「それはなんとか誤魔化すさ」
『ありがと』
「必ず帰ってこい。約束だ」
『うん。いってくる』
そう言うと、バイアスは天使を連れ地球から飛び立った。残された人類軍はアカリという英雄を失った。その知らせは生き残った人類を悲しみへと落としていった。
◆
◆
「ねぇ、アカリは?」
「あいつは……」
「嘘……そんな……」
レミはタツミの暗い表情を見て地面に崩れる。
「そうか……アカリ君は天使に」
「ええ。ですが、あいつは必ず帰ってくると言ってました。信じましょう」
「……そうだな」
◆
◆
太陽系から遠く離れたどこかの宙域、そこにバイアスと天使はいた。
「あそこだよ。あなたたちの新しい故郷」
バイアスは天使たちに守られながら地上へと降下を始める。その星は生命体のいない静かな砂だらけの星だった。
「ここならきっと安心暮らせるよ」
すると、バイアスから金色の光が飛びだし、地面に入り込む。すると、再びヘイローと同じ大きさの金色の大樹が生えてくる。
『ありがとう。あらたなヘイローよ』
「うんうん。お礼なんていらないわ」
『これで君たちの仕事は終わりだ』
「えっ?」
すると、バイアスを覆っていた金色の光が徐々に消えていく。
「どうして……」
『この世界には我々だけで十分だ。お前たちがいていい場所じゃない』
「でも……」
『お前はお前の故郷へ帰るんだ』
「……ありがとう!」
『遣いの天使と一緒に帰るんだ』
ヘイローが言うと、二体の天使が、バイアスを掴み、上昇していく。
『まさかこんなことになるとは……』
「私も予想外だったよ」
こうして、バイアスは地球へ向けて飛び立った。
◆
◆
そのころ、地球では砂漠化再生プロジェクトが開始されていた。
「ふぅ……」
タツミは額から流れる汗をぬぐう。今まだ地球の一パーセントも戻っていないが、いずれはあの頃のような綺麗な星に戻ると言われている。
「いつまでも待っててやるだから、速く帰ってこい」
タツミは地面に突き刺されている《大型剣》とライフルを見て呟く。
翌日もそのまた次の日もアカリが帰ってくることはなかった。このまま帰ってこないんじゃないかと思われた。
数日後、それは突然訪れた。いつものようにタツミが地球再生計画の実験をしていた時のこと、空が急に金色に輝き始めた。タツミたちその場にいた人々は皆目を瞑り悟った。
『天使が来た』
と、しかし、天使の他に見覚えのある姿があった。
「バイアス……」
バイアスが地面に降りると、コックピットが開き、アカリが出てくる。アカリが手を振ると、側にいた天使たちは人類を襲うことなく、空へと消えていく。
「えっと、ただいま」
地面に降りたアカリが申し訳なさそうな顔で告げた。
「バカ野郎。遅かったじゃねぇか」
「ごめんね」
「あっ、アカリだ!」
衝撃に気づいたレミが外へ出てきていた。そして、アカリに思いっきり抱き着く。
「ちょっと、レミ!」
「うるさい! 心配したんだぞ!」
「えへへ」
「良かったですね。タツミ先輩」
カップスがタツミの肩に手を置く。
「何がだよ」
「なんでもないです」
◆
◆
「写真撮りますよ!」
カップスがカメラを持ち、アカリたちを《大型剣》とライフルの前に集める。
「はいチーズ!」
アカリ、タツミ、レミの三人のピース写真はまるで、天使が微笑むかのように美しく壮大だった。
機械天使は砂漠に微笑む 星空青 @aohoshizora
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