135
――結婚式から半年。
時の流れと言うのはあっという間だ。
とある日の、昼下がり。わたしは、ディルミックにお茶を淹れて貰っていた。
新婚旅行、というよりは結婚式を挙げた記念に、とマルルセーヌに足を運び、夫婦茶器を無事購入できたので、これでわたし好みのお茶を練習したい、と言われたのだ。
わたしとしては、これ以上ないくらいに嬉しい言葉である。
そんなわけで、わたしはありがたくお茶をいただいたのだが――。
「どうだ……?」
わたしを緊張の面持ちで見てくる。
「……マルルセーヌにはこんな諺があります。『新婚夫婦は三分余分に茶を蒸らせ』。相手が好きであればあるほどなんでも嬉しく思って許せてしまうので、一歩下がって冷静に物事を見ろ、という感じの意味ですね」
渋い茶でも飲んで目を覚ませ! ということである。
「つまり?」
「うーん、六十二点!」
ディルミックが淹れてくれるだけで百点満点! と言いたいところではあるのだが。でも、単純に採点するなら六十二点くらいが妥当だろう。
「まずくはないですし、普通に飲めます。でも、もっと美味しく淹れられるコツがあるんですよ」
本当にまずい人はびっくりするくらい渋かったり苦かったりするのだ。お茶を淹れたことがない、というディルミックが、少し手順を教えて貰っただけでこのくらい淹れられるのなら、器用な方だと思う。
少なくとも、わたしがお茶を淹れる練習を始めた頃よりは全然上手い。あの頃のわたしは蒸らし時間とか、先にカップを温めておくだとか、そういう概念がなくて、適当にお湯を注いで色が変わったらオッケー! くらいの気持ちでいたのだ。渋いお茶をしこたま飲んで、蒸らし時間の大切さを、身をもって知った。
「なかなか難しいものだな」
「いつか百点のお茶を淹れられる様になればいいんですよ。……いつまでだってお付き合いしますから」
そう言えば、ディルミックは、はにかみながら「精進する」と言った。
結婚式から、半年。この半年で、劇的にグラベイン王国が劇的に変わったかと言うと、そうでもない。最近ようやく、貴族階級の幼少期の教育に対する取り締まりの法律が出来上がったばかりだ。
グラベイン貴族――特に令嬢は、醜男に対して嫌悪感を抱くよう、洗脳や刷り込みに近い教育をされるのだという。醜男と結婚し、その子供を産んで、さらなる醜男を産んでしまえば結婚や跡取りに相当苦労し、最悪お家断絶もあり得るから、という理由で、そんな教育がなされるらしい。
そういう教育自体が今後規制されるそうだ。
本格的に人々の意識が変わるのは、もう数代後の話になるだろう、とディルミックは言っていた。まあ、今の貴族界の中心の人たちが、バリバリにそういう教育を受け、施してきた人たちだからね。逆にその教育を規制する法律が通ったものだ。
そんな感じで、世の中はたいした変化がないが、ディルミック自体は、前よりさらに明るくなったように思う。まだちょっと控えめというか、ネガティブな受け取り方をすることがあるが、少なくとも「僕なんか」とは言わなくなった。……わたしが絶対に言わせない、とも言うが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます