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 うきうきとしながらチェランジを初め、現在四戦目。二勝一敗で、ディルミックの方が勝っている。わたしもディルミックも、駒の動きを確認しつつの初心者なのだが、ディルミックの方が若干強いようで、今もわたしが押されている。

 ディルミックは既にほとんどの駒の動きを覚えたようだし、やっぱこういう戦略系のボードゲームは男性の方が強いんだろうか。


 でも、こうしてたわいない話をしながら遊んでいるだけで楽しいので、これで十分ではある。勝てたらもっと楽しいけど、負けたら負けたで、つまらないわけじゃない。

 負けて悔しくないわけでもないのだが。


「むむむ……」


 わたしはお茶請けに、と用意されたハムをフォークでつまみながらうなった。わたしの好きな茶葉はお肉もあうのだ。あんまりお茶会って感じでわたしが出すことはあんまりないんだけど(というか茶葉自体好き嫌いが分かれる味なので、他人にふるまうときには滅多に使わない)、今から急にクッキーを出せるわけじゃないので。

 この駒を動かすと次に取られるし、あっちの駒を取れたらいいんだけど階級が足りないし……なんて考えていると、もう詰んでいるような気がしてきた。いや、まだ挽回出来るはず……。


 しかし、どれだけ考え込んでも活路は見いだせず、わたしはフォークを置くと当時に降参した。


「ディルミック強いですねえ……。うーん、次は勝ちます!」


「是非頑張ってくれ」


 うぬぬ、勝者の余裕っぽくてやっぱちょっと悔しい。

 駒を並べ直している際に、ふと、ディルミックの目元にまたクマが出来ているのに気が付く。


「……もしかして、ディルミックが最近ずと徹夜だったのって、今日の為だったりしますか?」


「…………」


 ディルミックは何も言わない。でも、雰囲気からしてこれは無言の肯定だろう。

 じっと彼を見つめていると、少しして、降参したように「すまなかった」と言った。


「どうしても、今日祝いたかったんだ。だから、絶対に空けようと思って……」


「もう! 根詰め過ぎたら駄目じゃないですか」


 祝ってくれるのは嬉しいし、今日だって最高の誕生日だけれど、こうして無理をしてほしいわけじゃない。


「でも、君は当日に僕を祝ってくれたから。……僕が、どれだけ嬉しかったことか」


「ディルミック……」


 あの日のディルミックを思い出せば、彼が喜んだことも分かるし、だからこそわたしを喜ばせたかったというのも理解できる。

 だからこそ、これ以上文句を言うのは流石にちょっと違うのかもしれない。

 でも、無理はしてほしくないわけで。


「……来年は、無理しないでくださいね。当日じゃなくたって、祝ってくれるだけで嬉しいんですから」


 これ以上お小言を言うのはやめにしよう。

 そう言うつもりで言えば、「『来年』も、絶対に祝わせてくれ」と破顔した。

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