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 ディルミックと額を打ち合って数週間。あれからディルミックはちゃんと寝るようになったのだが、ここ数日、また夜更かしが酷くなってきているように思う。

 結婚式まであと二か月だというのに、そんなに仕事を詰め込んでいて大丈夫なんだろうか。


 今晩あたりまた声をかけようか……なんて思っていると、扉がノックされた。――寝室と繋がっている方の扉である。

 まだ朝食が過ぎて一時間くらいしか経っていない。こんな時間帯に、しかも寝室側から尋ねてくるなんて、珍しいこともあるものだ。


「どうかしましたか?」


 扉を開けると、ディルミックが立っていた。仮面をしていないディルミックは、ちょっと困ったような表情をしている。困っている……というか緊張している? 目線がどうにも合わない。


「今、時間いいだろうか」


「大丈夫、ですけど……」


 今日は義叔母様が来ない日。勉強でもするか、と思っていたくらいなので、やることがないわけではないが、やらないといけないことでもないので、予定は全然ずらせる。


「あ、部屋入ります?」


 扉を境に、互いに立っているだけなのもどうかと思い、わたしは彼を部屋の中に招き入れた。

 お茶でも淹れるか、とミニキッチンの前に立つと、「ろ、ロディナ」と声をかけられる。

 なんだろう、と振り返ると、そこには紙袋を差し出すディルミックがいた。紙袋、と言っても、ただの買い物袋の茶色い紙袋ではなく、きちんと包装されている紙袋だ。


「その、これを――君に」


「はあ……ありがとうございます?」


 よく分からないが、貰えるものは貰う性分なので、素直に受け取る。


「開けても?」


「あ、ああ。気に入るといいんだが……」


「それじゃあ失礼して――、わあ!」


 紙袋の中身は、マルルセーヌで一番有名なお茶屋さんの茶葉だった。文字がグラベイン文字なので、グラベイン王国支店のものかもしれない。

 このお茶屋さんは、普段使いするには若干お高いけど、特別な日に買うちょっと贅沢な茶葉を取り扱っていて、世界中に支店がある。といっても、マルルセーヌ以外だと各国に二、三店舗くらしかないのだが。


「どうしたんですか、これ」


 しかもわたしの好きな茶葉だ。ファーストティーでディルミックに淹れたものを覚えてくれていたんだろうか。


「マルルセーヌでは、茶葉を送るんだろう? ……誕生日に」


「誕生日? ……あ、ああ! そういえば、今日でしたね!」


 すっかり忘れていた。

 今日はわたしの誕生日である。


「え、覚えててくれたんですか?」


 彼に直接伝えた覚えはないが、結婚前の事前調査というか、簡単な履歴書みたいなものを書かされて(といっても当時のわたしは文字が書けなかったので、従者っぽい人の質問に答えただけだが)、そこで生年月日の記入もあった気がする。


「うれしい……ありがとうございます!」


 完全なるサプライズ。誕生日も、わたしの好きな茶葉も、なんならマルルセーヌでは誕生日に茶葉を送るという話も、全部覚えていてくれたのか。

 こんな嬉しいことがあるだろうか。


「それと、今日は一日時間を空けたんんだ。……もし、君がよければ、これからチェランジをやらないか?」


「……! やります、やりたいです!」


 機会があればやろう、と言っていて、ずっとできなかったチェランジ。ディルミックはいつも仕事をしていて、なんとなくわたしからは声をかけにくくて。かといってディルミックから誘うこともなく、忘れたか、あくまで社交辞令だったのかな、と思っていたのだが。


「準備しますね! あ、お茶も、茶葉、使わせて貰います!」


 大好きな人から、大好きな茶葉を貰って、その人の為にお茶を淹れられて。覚えていてくれたことも、すごく嬉しい。

 こんな誕生日、最高過ぎる!

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