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「そういえば」


 寝支度もすませ、あとは寝るだけ、というタイミングではあるのだが、ふと気になったことを聞いてみる。


「辺境伯家の処罰が甘いのって何でですか?」


 まあ、確かに隣国と接している領地の領主を簡単に取り潰すことができないのも分かるが、はっきりと『甘い』と言ってしまっていい物なのだろうか?

 そんな風に思っていると、さらっとディルミックは「辺境伯家は王族の血筋だからな」、なんてさらっと言ってのけた。


「王族……えっ、王族? 王族ってあの? 王様のやつですか?」


「他に何があるんだ?」


 突拍子もない返答に、思わず変なことを返してしまった。王族は王族に決まってるだろ。


「まあ、王族と言っても、遠い昔、辺境伯家の始祖が王家の者だっただけで、今は他の貴族となんら変わりない。多少、優遇されることもあるがな」


 カノルーヴァ家だけでなく、北と東にある辺境伯家の始祖も王家の人らしい。ちなみに西は海で国と繋がっていないので、辺境伯家は置かれていないそうだ。


「形だけの王位継承権はあるがな」


「ディルミックは王子様だった……?」


 王位継承権あるって、本当に王族の人みたいだ。

 わたしの王子様発言がおかしかったのか、ディルミックが軽く笑う。


「本当に形だけだぞ。順番で僕に回ってくるようならグラベイン王国はもう終わりだな」


「縁起でもない……。ちなみに何位なんですか?」


「三十九だ」


 それは確かにグラベイン終わりですね……。だって王族が三十八人死んでしまう分けで……。なお、グラベイン王国では王位継承権五十位まで記録として残るらしいが、実際表に出るのは十位くらいまでで、実際継げるとなるのは五位くらいまでが限度らしい。十一位以降は王族の血を引いている、という証明の為にあるだけで、実際に使われることは千年の歴史を見ても、一度もないそうだ。


「テルセドリッド王子は王位継承権のある者はみな家族、という考えのお方で、順位に関わらずよく声をかけてくださるんだ」


 少し嫌そうにいうディルミック。多分、あんまり嬉しくないんだろうな。

 なんかあんまり思い出せないんだけどね、テルセドリッド王子。パッとしない人だった、という記憶しかない。パーティーでは緊張していたし、グラスを落としそうになったあのハプニングの印象が強すぎて他がかすんでしまっている。

 まあ、それでもわたしたちの式の立会人になってくれるというのなら、感謝をしないといけないな……。


 しかし、お飾りとはいえ王位継承権を持つ貴族とよく結婚できたな、わたし。隣国の平民だぞ。

 宝くじ一等並みの運じゃないだろうか。いや、それ以上か?


「ロディナ?」


 じっと見つめすぎたらしい。ディルミックが不思議そうに声をかけてきた。


「いやあ、よく結婚できたものだなあ、と。わたし、ただの平民だったのに」


「確かに君は平民だったが、僕の妻になってくれたのに『ただの』なわけないだろう」


 僕の妻、と嬉しそうにいうディルミックがまぶしくて、照れ隠しに思わずそっと目をそらした。


「……グラベイン人じゃなくてマルルセーヌ人なあたり、さらに奇跡を感じますね」


「違いない」


 くつくつと笑っているディルミックだが、ふと、何かを思い出したような顔になる。


「そういえばロディナ。僕も君に質問をしても?」


 改まってなんだろうか。まあ、別に質問をするくらい、好きにすればいいのに。答えられるかはまた別の話だが。いや、隠し事、とかそういうわけではなく、単純に知らないことだったら答えられないし。

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