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わたしが迷いなく言うと、ディルミックは目を丸くした。だが、すぐにへにゃ、と柔らかくほほ笑んだ。
「あれこれ考えてきたのに、そうすぐに承諾されると、格好が付かないな」
「……そうですかね?」
僕なんかが、といつまでもいじいじとしていた頃や、どこにもいかないでと泣き縋ってきた頃にくらべれば、ぜんぜん格好ついてると思うけど……。まあ、前者はともかく、後者はそういうディルミックもそれはそれで可愛くて好きなので問題ないのだが。
「でも、結婚式って言っても何をするんですか? ……仮面、大丈夫ですか?」
わたしがイメージするのはやっぱり前世の結婚式だ。立会人が王族らしいし、神父の代わりに王族が立つと言う感じだろうか。
その中でのっぺりとした仮面をつけるのは流石に異様というか……。あと前世だと誓いのキスとかあるしね。流石に省くのか、そもそもないのか。
「いっそわたしも仮面を付けた方がつり合いが取れますかね?」
試しに言って見たが、ディルミックは首を横に振った。
「……いや、仮面は付けない」
「え、でも……」
ディルミックの仮面は、文字通り顔を隠す為のものである。――かつての魔王と瓜二つな顔を隠すための。
流石に貴族相手では、平民相手の様に、『見られても平気』とはならないだろう。知らない人もいるのだろうが、きっと貴族ならばかつての魔王の姿絵を見たことのある人が何人もいるはずだ。
だからこそ、ディルミックはこうして顔を隠しているのだから。
「確かに、この顔を晒せば、今以上に僕の扱いが酷くなるかもしれない。……でも、そうでないかもしれない。テルセドリッド王子を覚えているか?」
「えっと……第三王子、ですよね?」
ちょっと自信がなかったが、ディルミックは「そうだ」と答えてくれた。間違えなくてよかった。
「テルセドリッド王子は、平和主義者で、グラベインでも差別をなくそう、と活動をされているお方だ。……僕はあまり彼を好かないがな」
あまり、という言葉が似合うほどの表情ではなかった。王子相手なのでやんわり言っているが、おそらく相当嫌いなのだろうことが、ディルミックのしかめっ面を見れば分かる。
「以前、声を掛けられたんだ。『もし、結婚するなら式を挙げたらどうだ。私が立会人になるぞ』とね。……おそらくは、美醜差別の垣根をなくす一手として、僕を利用するつもりなんだろう。本人は利用しているという意識はないだろうが。結局、以前の三人とはそういう雰囲気にはならなくて、話にすら上がらなかったが」
言葉の端々にちょっとした棘を感じる。本当に嫌いなんだな……。
差別の対象であり、言い方は悪いが、グラベイン貴族の最底辺にいるディルミックが、式を挙げ幸せをアピールすることで、誰にでも幸せになる権利がある……と、差別される側の意識の向上をもくろんでいる……とかそんな感じだろうか。
いやそれ普通に性格悪いな。それを善意で言っているというなら、なおのこと質が悪い。
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