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「結婚式、ですか……」
まあ、正直なところお金がかかるよねえ……という印象しかない。勿論、ウエディングドレスは綺麗だし、節目にそういうイベントをするのはいいことだと思うけれど、写真で十分というか……披露宴とかそういうのは、派手にやるのは無駄だなあ、と思ってしまう。
というのは前世の記憶からの意識であり、今世ではいまいち結婚式はピンとこない。マルルセーヌではあんまり結婚式の文化が盛んではないので。
「先日の件があっただろう? あれがどうも……アマトリー家やボーディンラッド家が関わっているらしくてな」
アマトリーとボーディンラッド。覚えにくい名前で、ちゃんと覚えていなかったけれど、言われれば、王都のホテルで絡んできた貴婦人とその甥っ子の家ということは思い出せる。
「グラベイン貴族は結婚式はあまりしないんだが、君さえよければ僕は君と式を上げたいと思っている。……グラベイン貴族はつながりを周りに周知するために式を上げるんだ。代わりに離縁しにくくなるんだが……」
ディルミックの説明によると、グラベイン王国では『立会人』がいる元、結婚式を執り行うらしい。平民の『立会人』はその式を上げる平民が済む土地の領主になるそうだが、貴族の『立会人』は王族になるらしい。
離縁すること自体は平民でも貴族でも変わらず認められている権利ではあるのだが、貴族の場合は王族が『立会人』。年に一度、結婚式とまとめて離縁式を行うような平民とは違い、結婚式も離縁式も、貴族の場合は事前申請が必要になる。
ただでさえ結婚式で王族の世話になったのに、その世話になった王族の顔に泥を塗り、さらには再び世話にならないと行けない、という状況では、なかなか離縁しにくいというのが現状で、一度結婚式を上げた貴族は、権利があるにも関わらず離縁しないのだという。
だからそもそも連座回避の為に離縁をすることが多いグラベイン貴族は、結婚式自体を上げないのだそうだ。
連座ってあれだよね、連帯責任的な……一緒に罰せられる的な……。それを回避するために結婚式を上げないのが普通って、グラベイン貴族闇が深すぎない?
「僕はこれから先、連座を求められるような罪は犯すつもりない。そもそもカノルーヴァ家に限らず辺境伯家は普通の貴族より多少甘くなるんだ、処罰に関して。だから君に連座の責任が周る可能性は低いが……絶対にないとは言えない」
「でも、式を上げたらなにか利点があるんですよね?」
ただ見せびらかしたいから、という理由で言ってきているのではないことは、ディルミックの顔を見れば分かる。
「結婚式を上げてしまえば、君は正式に僕の妻となる。いや、今の状態が仮というわけでは決してないんだが、周りの貴族は君の出自を気にせず、正しく僕の妻……カノルーヴァ夫人として認識するようになる」
ということは、王都であった、グラスを受け取らないような、ああいうアクシデントが起こらなくなるということか。
「それに、式を上げると……不謹慎な話ではあるが、僕が先立ったとしても、君は永遠にカノルーヴァ夫人だ。僕の身内がまだ生きているから、カノルーヴァ家を継ぐのは難しいが、他の貴族家へ嫁ぐことが出来なくなる。つまりは、先日のような事件がもう起きなくなると考えていい」
……ということは、ディルミックを殺してわたしを未亡人にしたところで、あの貴婦人の甥っ子に嫁がせる……という計画の元、あの事件が発生したのか。
「でも、連座の可能性は低くても、僕の差別に巻き込まれる可能性は十分ある。だから、無理にとは――」
「上げます」
わたしはディルミックの言葉をさえぎって、言葉を重ねた。
「もう、あんな風にディルミックが狙われることがなくなるんでしょう? なら、断る理由はないです」
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