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「怖くなくなったか?」


 ディルミックは、至極優しい声で、わたしにそう問うた。その顔には、足りなければまだまだ説得できる、と書かれているようにも見えた。

 怖くないか、と聞かれれば、まだ、ちょっと怖い。

 わたしの母たちも、最終的に父よりお金を優先したとはいえ、駆け落ちをするくらいだったのだから、最初は父のことを愛していたのだろう。

 母たちも、最初から父を捨てるつもりで駆け落ちに応じたわけではないはずだ。……多分。今となっては、どちらにも確認が取れないのだが。


「そう……ですね。少し、怖くなくなりました」


 ずっとわたしの手を握っていたディルミックの手を、きゅっと握り返す。

 少しだけ、手が震えた。


「――貴方のことを、好きだと想ってしまっていることを、認められるくらいには」


 わたしの口から、一生言葉にすることはないだろうと思っていた想いが、形になる。

 ひゅう、とディルミックが息を飲む音が聞こえた。


 言うのが恥ずかしいだとか、やっぱりまだ少し不安なこともあるだとか、そういう思いはある。

 でも、わたしの話を聞いてくれて、その上でこんなにも欲しかった言葉をくれたディルミックに、誠心誠意、わたしの言葉を返したかったのだ。


「たとえわたしが、わたしのことを信じられなくても、わたしのことを認めてくれるディルミックのことは、信じられるので。もし、また、わたしが不安になるようなことがあれば、こうして手を取って、わたしと話をしてくれますか? ――わたしが、いつか死んでしまうまで」


「――っ!」


 王都のホテルで、ディルミックに、傍にいてほしいと、泣いて縋られたことがあった。

 あのとき、わたしは、契約があるのだからと、その話を引き合いに出したが、今は違う。

 わたしが、ディルミックの隣にいたくて、いつか死ぬまで、と言わせて貰った。

 あの時はお金で契約したことをを信用してほしいと思ったが、今はわたし自身を信用して欲しいと、柄にもなく思ってしまっている。


 わたしの言葉を受け取ったディルミックは、しばらく固まっていた。この処理落ちディルミック、少し懐かしいな。


「僕、で、いいのか?」


 彼がようやく口にしたのは、そんな言葉だった。ここで『僕なんかで』と言っていたら流石にその綺麗な顔のほっぺをつねっていたところだ。


「わたしは貴方がいいんです!」


 ディルミックに握られていた手をするりとひっこぬき、そのまま彼に思い切り抱き着いた。

 少しして、わたしの背中にディルミックの腕が周る感触がして、嬉しくなって、さらにぎゅっと強く抱きしめたのだった。

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