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 視界の端でキラリと光った物の正体を見つけ、わたしは血の気が引いた。


 ――ナイフである。


 こんな場所にあるには、あまりにも不自然な物に、思わず二度見してしまった。軽いお祭りみたいな、出店が並び、客がちらほらといるだけのこの場所で、そんな立派なナイフ、どうして必要だというのだろうか。ちょっと紐を切るために、みたいな、小ぶりなナイフだったら、そこまで目をひかなかっただろう。


 でも、あのナイフは、万能包丁くらいの大きさである。不自然すぎる。

 先ほどまでは何も持っていなかったと思ったのに、わたしと、ディルミックたちの近くにいる男が、いつの間にかナイフを持っていた。


 しかも持ち方が、店で使うために持ってきた、という風ではない。明らかにナイフを持って、構えている。

 わたしの不自然な視線の動きに、ディルミックと会話をしていた護衛の人が、不審者に気が付いた。腰に下げたその剣を引き抜きながら、ディルミックの前へと出る。


 でも、わたしには、全てがスローモーションに見えて。


 ディルミックを襲うためにナイフを構えて突撃してくる男も。


 ディルミックを守るために前に出た護衛も。


 護衛が動いたことによって状況に気がつき、守られるように少し下がったディルミックも。


 全部が全部、鈍い動きに見えた。


 ――間に合うのか?


 この一瞬の間に、ふと、わたしはそんなことを思ってしまった。

 間に合わないで、ディルミックが襲われてしまうかもしれない。ほんの少し、そんなことが頭をよぎってしまえば、もう駄目だった。


 わたしが動いたところで間に合うか分からない、と頭の片隅では分かっていても、体は勝手に動いた。ディルミックが刺されるかもしれない、という恐怖が、わたしを突き動かした。

 ディルミックは、わたしが手を伸ばせばギリギリ届く範囲にいる。


 思わず手を伸ばして、わたしと入れ替わるような勢いで、彼の腕を引っ張った。


 ――ひっぱった、はずだった。


 ディルミックの腕を引っ張って、立ち位置を入れ替えることには成功したはずだった。いくら男性の体格とはいえ、火事場の馬鹿力を発揮した女が、急に引っ張ったら、耐えられなかったのだろう。

 でも、すぐに引っ張り返され、かばうような形で抱きしめられた。


 ……悲鳴が聞こえる。


 その悲鳴を聞いて、辺りがスローモーションに見えていたのも、全て元に戻った。


 ――わたしを抱きしめるディルミック越しに、地面に敷かれた煉瓦の上に、血だまりが出来ているのが、見えた。

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