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 想いを自覚してほんの数日。しかしわたしは、徐々に平常心を取り戻していった。取り戻した、というか、ディルミックと顔を合わせて話す機会が少なくなって、緊張する時間が極端に短くなったというか。


 それになにより、今日はディルミックの誕生日当日である。折角の誕生日なのに、もだもだとしていてはもったいない。

 朝起きてすぐ、身支度を整えてディルミックの私室へと向かった。


「ディルミック、今、時間大丈夫ですか?」


 彼の私室へ繋がる扉をノックし、声をかける。今日はいつも通り、ディルミックの方が早起きだった。身支度も既に住んでいたのか、すぐに「問題ない」という声が返ってくる。


 扉を開ければ、こんな日でも書類を確認しているディルミックが目に入った。


「折角めでたい日なのにお仕事ですか?」


「まあ、今日も一般公開があるからな。人が少ないとはいえ、巡回がある日だし、今のうちに目を通しておきたいんだ」


 そういって目線を上げたディルミックの顔には仮面がついていない。すっかりと慣れてくれたのか、もう二人きりのときには仮面を外すのが当たり前になっていた。懐いてくれたようで、普通に嬉しい。

 とはいえ、未だに『僕なんか』と口走ることがあるが。

 そんなことより。


「お誕生日おめでとうございます、ディルミック!」


 わたしは彼に、手紙を渡した。

 こちらに来たばかりの頃、初めてカノルヴァーレの街へ遊びに行った際、一目惚れして買った便箋。


 それが今、ようやく出番がやってきた、というわけだ。


 まあ、本当は先にお茶会の招待状として使う予定だったのだが……。まあ、こればかりは仕方あるまい。ディルミックの方は予定が一杯で、時間をつくりにくいのだから、暇なわたしが合せるほうがいいだろう。


 わたしから手紙を受け取ると、ディルミックはとても嬉しそうに笑った。グッ、顔が良い……。

 でも、たとえギリギリまで文字を練習して書いたものとはいえ、もっと綺麗に書くことができたらな、と思っていた。ガラスペンもグラベイン文字も、まだ全然慣れないので、仕方ないと言えばそれまでではあるのだが……。ぐぬぬ。


「それが今のわたしの精一杯の字です。来年からはもっと綺麗に書けるように頑張るので、今年はご容赦を」


 わたしがそう言うと、にまにまと手紙を眺めていたディルミックが、パッとこちらを向いた。


「――! 来年も、くれるのか……?」


 きらきらとした目でこちらを見られると、言葉に詰まる。

 お誕生日おめでとう、こちらに来てまだ半年だけど今の生活は楽しいです、これからもよろしくね。

 ただそんな感じのことしか書いていない、たった一枚の便箋だけで収まってしまった手紙を、そこまでありがたがられるとこっちもたじろいでしまう。


「まあ……死ぬまで書いてあげますよ」


 ……来年は文字を綺麗に書くだけじゃなくて、もう少し長く書こう……。

 わたしの言葉を聞いて、ディルミックは本当に嬉しそうに笑った。

 その笑顔に見惚れてしまったが、ハッと我に返る。危ない危ない、忘れるところだった……。


「それとですね、ディルミック。こちらも、貴方に」


 そう言いながら、わたしはもう一枚、メッセージカードを取り出した。

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