75
わたしはディルミックが起きた時にすぐ気が付けるよう、寝室とわたしの私室を繋ぐ扉を開けたまま、わたしの私室へのミニキッチンへと向かった。あれだけぐっすり眠り込んでいたらしばらく起きないだろうけど、一応ね。
お湯を沸かしながら手早く茶葉と牛乳を用意する。しゃきっと目を覚ましたいときはストレートのほうがいいが、まあ、今日くらいはミルクティーでもいいだろう。ちなみにこの世界でも冷蔵庫はあるので、ミニキッチンの下に小さいものを取り付けてある。冷蔵庫はあるし、最近は洗濯機も市場に周り始めたようだ。電話やメールが出来る通信機器の方の発展は全くないのだが。
一人暮らしとかでたまに備え付けられている、立方体に近いあの冷蔵庫である。どうせ牛乳くらいしかいれる物がないのでこの小ささでも十分だ。
前世にも、アーリーモーニングティーといって、使用人が主に淹れていた紅茶が後に妻へ夫が淹れる起き抜けの紅茶があったが、マルルセーヌではさらに進化した。
平たく言えば、妻側が「わたしたちだってお茶淹れたい!」と言い出したのである。
相手の好みのお茶を知り、淹れられるようになって一人前、と言われるだけあって、相手の為にお茶を淹れるのは愛情表現なのである。友人は勿論、家族や恋人、夫婦にパートナー。親しく、愛おしい相手にはお茶を淹れたくなってしまうものなのである。
とはいえ、その中でもモーニングティーというのは特別で、特定の茶器を使って自分の妻ないし夫にふるまうものだけをマルルセーヌでは『モーニングティー』と呼ぶ。
なので今淹れようとしているのは正式にはモーニングティーではないのだ。普通の茶器だし。
でもまあ、ふるまう相手はディルミックだし。誰かに言いふらすわけでもないのでセーフでしょ。実質モーニングティー。
着々とモーニングティー(広義)を準備していくと、自分もこんなことをするようになったんだなあ、となんだか感慨深く思う。
マルルセーヌにいた頃はこんな自分の姿を想像出来なかった。一夫多妻が嫌とはいえ、自分のことだから、お金につられて適当な金持ちのところに形だけの妻になるんだろうなあ、と本気で思っていたのだ。
その場合、きっと他の妻たちがこぞって夫にモーニングティーを淹れただろうから、わたしの出番なんてなかったのである。
「――よし」
準備を終え、わたしはトレーにお茶を載せて、寝室へと戻った。
相変わらずディルミックはぐっすりだが、流石にそろそろ起きないとまずいだろう。
普段はわたしの方が圧倒的に遅く起きるので、ディルミックが何時に起きているのか知らないが、時計を見れば普段わたしが起きる時間帯の三十分前になっていた。
わたしは、わたし側にあるベッドそばのサイドテーブルにトレーを置き、ディルミックの肩を揺さぶった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます