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ふ、と意識が浮上する。朝の気配だ。
体が重くて、まだ動きたくない。もっと寝ていたい、というわけじゃないが、寝起きにしては体がだるい。
瞼も随分と重くて、目を開く気になれない。
それでもわたしは、なんとか頑張って起きようと、目を薄く開いた。
うっすらと見えるのは、いつも通り、誰もいないシーツの白ではなく、褐色肌で……。
「! ――っう」
思わずがばりと起き上がろうとしてしまった。腰の鈍い痛みに、それは叶わなかったが。久々だからか、キスをしてしまったからか、昨晩は随分と、その、盛り上がってしまった。今までがことさら事務的だったとは言わないが。
だからなのか、珍しく、ディルミックがまだ眠っていた。
いや、珍しくというか、初めてでは? 初めてディルミックの寝顔を見れるのでは?
わたしは彼を起こさないように、そっと、こちらを向いて眠るディルミックの顔を覗き込んだ。
思わず、「うわぁ」と言ってしまいそうだったが、慌てて口を閉じる。
顔がいいので、寝顔もさぞ整っているのだろうと思いはしていたが、想像以上だった。
まるで精巧な人形のようですらある。顔色がいいし、ちゃんと呼吸をしているので人形と見間違うことはないが、ディルミックがもう少し生気のない人間だったら、ぞくりと来ていただろう。
よほど疲れているのか、それともわたしに気を許してきた証拠なのか、ディルミックはぐっすりと眠り込んでいる。
共に寝るようになって、あと少しで半年。
ようやく見れたディルミックの寝顔。
すぐに起きてしまうのがもったいなくて、少しの間、じっとその顔を見る。
とはいえ、わたしもまだ眠たいし、このまま寝転がっていたら二度寝をしてしまいそうなので、頑張って起きることとしよう。
先ほどはいきなり飛び起きようとしたのが悪かったのか、ゆっくり起き上がれば、腰の痛みはない。まあ、ちょっと重いかなあ、くらいである。
すやすやと眠るディルミックに、手を伸ばしそうになって、慌ててひっこめた。頭を撫でようものなら、流石に起きてしまうだろう。
その前に、折角だからやりたいことがあるのだ。
わたしはゆっくりとベッドから抜け出す。そっと、彼を起こさぬ様に。
「ちょーっと待っててくださいね」
わたしは彼に聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな声で、呟いた。
まだ眠っている配偶者がいる、早起きをしてしまったマルルセーヌ人が何をするか?
答えは簡単。
モーニングティー、起き抜けの一杯を淹れる、である!
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