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 今日はもう寝るだけだろう、なんて思っていたのだが、ベッドに寝ころんだわたしが見たのは、ベッドの天蓋ではなく、ディルミックだった。なんというか、その――とても、熱っぽい瞳をした、ディルミックの顔。

 ディルミックは、褐色肌であり色の濃い肌色をしているが(ディルミックに限らずグラベイン人はみんな大体こんな感じだが)、それでもはっきりと分かるくらい、顔を赤くしていた。


「ディル、ミック……?」


 子供を作ることを前提とした契約結婚なので、まあ、致すのは全然問題ないところではあるのだが、そう見つめられると流石に照れる。

 横向きで寝る気満々の体勢から軽く寝返りをうち、彼を受け入れる体勢に変える。暗に、いいよ、と言ったつもりだったのだが、ディルミックは、じっとこちらを見つめるだけで、行動を起こさない。


 なんだなんだ、こっちだって普通に照れるんだぞ。あんまりじれったいとさっさとしろと行動に移すけれど、恥ずかしさはあるんだぞ。

 長旅で疲れてるのに元気やなあ、と思っていたのだが、するのかしないのかはっきりしてくれ。


 もういっそ先に脱がすか? と彼の寝巻に手をかけようと、両手を浮かせたとき、ディルミックの唇が動いた。


「――そ、の」


 その低い掠れた声は、二人きりの静まり返った部屋でなければ、絶対に拾うことはできなかっただろう。

 ごくり、と彼の喉がなった。さっきも見たぞ、これ。

 ああ、また、何かを言いたいけれど迷っているのかとわたしはおとなしく彼の言葉の続きを待つ。


「――僕なんかがこんなことを言うのはおこがましいと分かっているんだ。正直自分でも気持ち悪いって思うし、君がそう思うのも仕方ないだろう。だから嫌だったら断ってくれていい。君は何も悪くない、僕がこんなことを言い出すのが悪いんだ」


「長い長い、前置きが長いです」


 めちゃくちゃ早口に一息でディルミックは言い切った。

 動揺しているのか、唇は震えているのに、しかし、目線はこちらを向いたままで、わたしの方が目をそらしたくなる。

 でも、ここで目をそらしたら彼は勘違いするだろうな、と思い、目をそらさない。――いや、妙な緊張感に、目をそらしたいと思いながらも、そらせないでいた。


「――君と、キスがしたい」


「……はぇ」


 びっくりしすぎて変な声が出た。というか呼吸に失敗して、一瞬喉が詰まった。

 言われてみれば、何度か共に寝たことはあっても、キスをしたことはなかったかもしれない。わたしもわたしで、実のところ、最中はいっぱいいっぱいなので、断言はできないのだが、多分、したことないきがする。

 わたしは全然気が付かなかったが、わざわざこうして問うてくるということは、ディルミックは意図的にしていなかったのだろう。


「情けを、くれないか?」


 体を許している相手に、そう懇願されて、断れる女がどれほどいるだろうか。

 少なくとも、わたしは無理だった。


「へ、下手くそって、笑わないなら……どうぞ」


 わたしは覚悟を決めてぎゅっと目をつむった。

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