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グラベイン中の貴族が集まるホール。思ったよりも人が多い。ディルミックからは家の代表として当主とその妻が、また、成人していて、且つ、未婚の長男ないし長女が来ると聞かされていたので、一家辺り最低二人、最高で四人になる。グラベインの貴族は全ての爵位を合わせて二十しかないそうなので、五、六十人程度だろうか、と思っていたが、もう少しいそうだ。
会場は賑やかで、ざわざわと周りが歓談しているのが分かる。控室にいた時ほど皆の意識がこちらに向いているような感じはしないが、それでも控室であれだけ注目を浴びていたのだ。どうにも『皆がわたしたちを見ていて笑っているのでは』と思えてしまう。突っかかってくる気配は全くないので、怖い、という気持ちはあまりないのだが、どうにも気分が悪い。鑑賞料取りたいくらいだ。
しばらくして、王家の使用人であろう男性が、ドリンクを持ってやってくる。ディルミックやわたしに話しかけたくないのか、露骨に偽物だと分かる笑みを張り付けていた。
とはいえ、ここで彼に突っかかっても仕方がない。わたしもまた、作り笑顔を浮かべて、彼からドリンクを受け取った。
ディルミックの方はうっすらと黄色に色づいたドリンクで、わたしのほうは濃い黄色のものだ。ディルミックのはアルコールで、わたしのはソフトドリンクだ。貴族の中には妊娠を隠している家もあるらしいので、女性にはアルコールが配られない。
照明に照らされてきらきらと光るドリンクはとても綺麗だ。まだ飲めないけど。
このドリンクが全員にいきわたると、ようやく主役の王子とその婚約者のご令嬢がホールへ入場する。それまではただ持って待っているしかない。
しばらくすると、ホールに流れていた音楽がぴたりとやんだ。演奏家達が手を止めたようだ。
会場の奥にある、緩やかなカーブを描く階段の上、二階ホールと言えばいいのだろうか。そこに二人の人物が立っている。
白い衣装に身を包んでいるということは、主役である王子とその婚約者だ。
王子は、黒い髪に彫りが浅い顔だった。遠目からでもあっさりとした顔だということが分かる。日本にいたころ、道端ですれ違っても、三十分後には忘れていそうな、特徴のない顔。
しかし、これが『美人』なのだろう。周りが息を飲み、うっとりして王子を見ているのが分かる。王子を立てるための演技なんかじゃない。心の底から『美人』だと感心して見入っているのだ。
――あれが『美しい』、か。
確かに、ディルミックとは似ても似つかない、別系統の顔。正反対とすら言える。
でも、わたしから見たら、ディルミックの方が綺麗で、美しく、かっこいいと思った。
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