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 久々にディルミックと一緒に昼食を鳥ながら、わたしは思った。

 本当、平民に生まれてよかったなって。


 今回は三時間付きそうだけのパーティーだから、義叔母様からは立ち振る舞いと受け答え、貴族の簡単な常識や言葉づかいなどを教えてもらっているが、もし貴族に生まれていたのなら、これに加えてダンスや食事作法、もっと詳しい教養を学ばないといけないのだろう。

 あと本当にコルセットがきつい。


 女と男では求められるものも学ぶものも違うだろうけど、ディルミックを尊敬するわ、本当。

 前世では、貴族なんて漫画やアニメの悪役として私腹を肥やす貴族くらいしかイメージがなかったが、こうして近い立場になってみれば、いかに貴族も大変か分かる。


「――ロディナ、体調が悪いのか?」


 わたしの箸――じゃなくてフォークとナイフの進みが悪いのに気が付いたのか、ディルミックが聞いてくる。


「いや、お腹は空いてる……と、思うんですけど、ううん……」


 コルセットがキツイって言っていいのかな。一応下着だしな、これ。男性相手にコルセットがきついとか、真昼間の食事時に言っていいものなのか、ちょっと分からない。

 前世ではもう廃れた時代に生まれ育ったし、今世では平民という、コルセットやドレスとは無縁な生活を送ってきたので、どう返答するのが正しいのか、分からない。

 ちょっと迷ったけれど、ディルミックに心配をかけるのもな、と思い、やんわりと誤魔化すように、言葉を探す。


「なんていうか、ちょっときつくてですね。ど、ドレスの下準備が」


「ドレスの下準備? 採寸は昨日――あっ」


 最初はきょとんとしていたディルミックだが、わたしの言いたいことに気が付いたのか、ちょっと頬を赤くして黙り込んでしまった。

 やっぱり下着の話は避けるべきだったか。ストレートに言わなくて、まだよかった。


 気まずい妙な沈黙の中、カトラリーの音が響く。響くと言っても、わたしの方ばかり、音が鳴っている気がするが。やっぱり、貴族ともなると、あまり音の出ない食べ方とかも学ぶのだろうか。

 わたしの意識はすぐ、ディルミックの所作に移るが、彼はまだ気まずかったらしい。

 んん、と小さく咳払いが聞こえてきた。


「あー……ええと、ロディナ。ドレスはどんな風の物にしたんだ?」


 本当に興味があるのか分からないが、気まずいというか、焦ったような表情でディルミックが話題を変えようとしているので、わたしもそれにのる。


「ドレスですか? デザインは、ほぼ義叔母様の勧めで決まりました。なにやら流行があるようで。色は――」


 そこまで言って、ふと、ディルミックと目があう。

 紫色の、瞳と。

 あれ、あれ!?

 深い意味はなかったけれど、これ、ディルミックの色に合わせたようなデザインになってしまうのでは!?

 …………。

 ま、まあ、ディルミックは仮面してるし? 多分、他の人は気が付かないでしょ。義叔母様だって、わたしが紫が好きって言って、ドレスを紫に決めたときに深く追及してこなかったし。

 ……ディルミックがどう思うかは知らないが。


「ロディナ?」


「い、色は……で、出来てからのお楽しみというこで!」

 

 今のわたしは、そう言うのが精いっぱいだった。

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