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 翌日。

 今日は義叔母様自体が屋敷に来ないので、本日もレッスンはお休みなのである。

 お休みのはずなのである。


「み、ミルリ……それは、一体」


 朝、着替えの手伝いに来たミルリは、普段では見慣れない『それ』を持っていた。見慣れないだけで、形状を見ればピンとくるのだが……。


「コルセットです」


 実物を見たことはないが、知っている。知っているのだが、どうしてここにあるのか、ということである。

 現在、わたしはマルルセーヌから持ってきた服と、何着かディルミックから貰った服を着用している。マルルセーヌから持ってきたのは、ほとんど寝巻か部屋着だけれど。いくら気合を入れて新品を買ったところで、所詮は平民が買った服。お貴族様の屋敷には合わない。


 ディルミックがくれた服は、ゆったりとしたワンピースが多い。多分、わたしが平民で、貴族のドレスに馴染みがないので、気を使ってくれたんだと思う。

 なので、コルセットとは全くの無縁だったのだが。


「フィオレンテ様より、本日からパーティーの日まで、毎日付けるよう言付かっております」


 そうですよね! 貴族のドレスと言えばコルセットですよね。あの義叔母様が見逃すわけがない。

 義叔母様のドレスを見て、嫌な予感はしていたのだ。あれは絶対に腰回り絞っているドレス。

 まあでも、当日にぎちぎちに締め上げられて死にそうになるよりは、少しずつ慣れていく方がマシだろう。……多分。


「では、失礼します」


 ミルリが慣れた手つきでわたしにコルセットを付ける。やばい、ドキドキしてきた。これわたし、耐えられるか?

 まあ、耐えるしかないんだけども!


「奥様、いきますよ」


「うん――んんん、無理無理無理、折れる折れる折れる!」


 最初はきゅっと締め付けられる程度で、たいしたことないじゃん、なんて思ったのだが、ミルリはいつまで経っても締め付ける手を止めない。


「奥様、息を深く吐いてください」


「ん、うう~――無理!」


 容赦なさすぎでは? こちとらコルセット初体験ですよ?

 息を深く吐けば、肋骨付近の痛みは和らぐが、代わりに苦しくてたまらない。こんなクソみたいな衣類、廃れて当然だわ。


「……このくらいにしておきますね」


 まだ絞め足りない、とでも言いたげな声音で、ミルリが言った。恐ろしい。


「当日はまだ絞る予定ですので、徐々に慣れていきましょう」


 これ以上絞るんですか!? 既に満身創痍なんだが!? 無理無理無理、貴族こわ! 怖すぎる!

 コルセットを付けると、アンダーバスト辺りから腰周りまで、かっちり締め付けられているからか、自然と背筋が伸びる。猫背なんてやったら苦しくてろくに呼吸も出来ない。メリットこれくらいしかなくない?

 義叔母様に何度も何度も所作に駄目だしを貰うより、こっちの方がずっと辛いんだが……。


 こんなん当日にやられたら、緊張と苦しさに絶対ぶっ倒れていた。義叔母様、様様としか言いようがない。

 ミルリに着替えを手伝って貰いながら、脳内で義叔母様に感謝の言葉を送りまくった。

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