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「オ、アァ~――ンンンッ」
ベッドに倒れ込みながら、自分でも思っていた以上におっさんくさい声が出て、気恥ずかしさに咳払いをした。ディルミックはまだ来ていないから聞かれてないとは思うけど。
フィオレンテさん――もとい、義叔母様(そう呼ぶように言われた)は非常に厳しい人だった。ただ、ディルミックが言うように、悪い人ではなかった。口が悪いというか、ストレートに物を言うだけで、普通に面倒見がいい人だと思う。
わたしのことを、貴族の常識を知らない他国の平民だと思っているだろうけれど、だからと言って適当な教育をする人ではないようだ。
わたしが素直に分からないと言えば、ちゃんと一から説明してくれるし、実際にやって見せてくれたり、理解できるまで何度も教えてくれる。そのくらい自分で考えろ、とわたしなら言いたくなるようなことでも、懇切丁寧に教えてくれた。
ただまあ、合格点は非常に高かったけど。というか本当にグラベイン人って極端な人が多いんだろうな、という印象を受けた。義叔母様の中では、満点か落第点かどちらかしかない気がする。
見捨てずに付き合ってくれるのは非常にありがたいのだが、こう何度もやり直しをさせられると非常に疲れる。肉体的にもだが、精神的にも。
自分では出来ているつもりでも、義叔母様から見たら全然できていないようで、何度もやり直しをさせられた。その都度、出来ていないところを教えられる。
初日だからこんなもん、と言いたいところではあるのだが。
それでも、ディルミックの隣に立って出席すると決めたのはわたしだし、こうして指導して貰えるのはありがたい話なので、頑張るしかない。
「国中のご令嬢全員に縁談を断られ、平民を買って娶るしか出来ず、その上三度も逃げられている、などという嘆かわしい噂に、新しい妻は不出来な下女だと加わるか、悪くない女を買ったようだと加わるかは、貴女次第です」
そう言われてしまえば、頑張るしかない。
まあどっちが加わろうとそんなにいいようには思えないけど、元々が悲惨なのでどうしようもない。
それでも、後者の方が、わたしにはマシに思えた。
ベッドの上でごろごろとしていると、ディルミックが遅れてやってくる。最近はようやくわたしがベッドにいることに慣れてきたのか、いちいち驚かなくなった。
すたすたとベッドに近付いたディルミックは、わたしに覆いかぶさるでもなく、普通にベッドに入ってくる。
「……しないんです?」
思わず聞けば、背を向けられてしまった。さらさらの髪の隙間から見える耳は、赤くなっていたけれど。肌の色が濃いので、分かりにくくはあるが。
「……疲れているだろう。叔母様の厳しさは僕もよく知っている。もう、寝ろ」
どこかぶっきらぼうではあるものの、わたしを気遣う言葉に、どこかくすぐったくなる。
「分かりました、今日はもう寝ますね。おやすみなさい」
疲れからか、ディルミックに挨拶をすると、すぐに眠気がやってきた。
ディルミックと何か会話をするでもなく、わたしはそのまま寝入ってしまったのだった。
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