第7話 第一の刺客

「あー、おもしれえこと起んないかなーー」

「何だいナイトメアの旦那。今日は彼女さん居ないのか?」

「シノンは彼女じゃねえって言ってんだろ。今日は俺一人でパトロールだ」


暇だ。ただただ暇だ。

エアとかいう超人を倒してからは、パッタリ超人を名乗る奴にも出会わなくなった。

もしかしたら、俺は相当な危険人物だと認識されたのかもしれない。


暗い路地を口笛吹き吹き歩く俺。

しかし超人か。まさか俺と同じような力を持つ奴らがそんなにいるだなんて知らなかった。恐らく普段は超人たちはその力を隠して生きているのかもしれないな。


「お前が、ナイトメアか?」


しかしここで、俺の背後から声がした。


「何だよ。俺に用があるのか?」

「そうだ。大人しくオメガの本部まで来い」


そこに居るのは、高校生くらいの男子だ。

読者モデルをやってそうな整った顔立ちで、制服を着てるが何処の学校かは分からない。しかもよく見ると横には同じ制服を着た女の子がいる。


「そいつは妹か?」


すると横に居た女子が前に出る。

似たような整った顔立ちに引っ込み思案そうな雰囲気の女の子だ。

恐らく血の繋がりはあるのだろうが、そいつはそれに関しては何も言わない。


「俺たちはお前を確保しに来た。抵抗するなら、無理やりでも抑え込むぞ」

「つまり、お前らは超人だと?」

「そうだ。俺は『光超人』ライト、そして『水超人』アクア。俺達二人が、お前を本部まで連れてくるようマリア様に命じられている」


超人は、クリスチャンじゃないと駄目な理由でもあるのだろうか? と一瞬思った俺だったが、すぐに間違いに気づいた。


「つまりお前らのトップはマリアって言うのか。それは、恩恵豊かそうな名前だな」

「四の五の言わずに俺達に従え。まさか、オメガランキング6位の俺と、8位のアクアを相手に勝てるなんて思ってはいないだろう?」


オメガランキングとやらは、恐らく強さランキングみたいなものだろう。

ということは、こいつらはそこそこ強いってことだな。


「いいじゃねえか。だったら、俺を少しでも楽しませろ」


と、俺が言ったその時だった。

横のアクアという女の子の目が青く光る。


するとそれは突然だった。

何と俺の周りを水のボールのような巨大な水球が覆った。


「水超人のアクアは何処でも好きなだけ水を召喚し、そして操ることが出来る。さあ水の中で溺れ死にしたくなければ大人しく降参するんだな」


水に封じ込められる俺。一瞬驚いたが、すぐに落ち着いた。

どいつもこいつも、空気を断てばどうにかなると思ってるなら短絡的すぎるっての。

俺は水中で軽く息を吐くと、一気に周りの水を飲みこんだ。


「ば、バカな!!」

「ウプッ、まあこんなもんだ」


御馳走様。丁度、喉が渇いてたから助かった。


「⋯⋯⋯‼」


アクアの目が驚きで染まっている。きっとこんな形で突破されるとは思ってなかったんだろう。


「アクア! もう一度だ!」

「やめとけやめとけ。俺はあと1億リットルくらいなら飲めるぞ」


すると今度は、俺の周りを囲むように水の礫が現れた。


『水弾丸!!』


パチパチと俺を狙い撃ちするアクアだが、残念ながら俺には効かない。

水は圧縮して放てば鉄をも切り裂くと言われているし、実際それくらいの威力で撃ってるんだろう。その証拠に俺の着るジャージはもうボロボロだ。


「やめときなアクアちゃん。俺にとってはシャワーとそう変わらない」


それでも俺の肉体には傷一つない。

するとここで俺の前にライトが立った。


「成程、物理攻撃に対する耐性はキャスランと同格か」


ライトの体から光が満ち溢れる。

まるで俺を光で焼き焦がさんとするような強烈な発光だ。


「俺は光であらゆる武器を創造する。水攻撃には強いかもしれないが、俺の光能力に勝つのは不可能だ!!」


するといつの間にライトの手には、金色に輝く矢と弓が握られていた。

それを構えるとライトは俺に向ける。


閃光矢シャインアロー!!』


パシッ。


「悪い。普通に取れたわ」

「お、お、光速の矢だぞ!?」

「うん、普通に取れた」


光の速度は、流石の俺でも目では捉えられない。

だから『予測』した。俺の脳内スパコンはライトの弓の構えや筋肉の隆起具合で、スピードと打ち込まれる位置を完璧に予想できる。


「まぐれだ!! まぐれに決まってる!!」


ライトは何発も何発も矢を打ちこむ。

そして俺はそれを、作業的に何発も何発もキャッチする。


凄くドッジボールが下手な人と一対一で戦ってるようなそんな感じがする。ライトには悪いが、後半は欠伸を噛み殺す方が大変だった。


「なら、これはどうだ!!」


すると、光で出来たキャノン砲を生み出すライト。


「死ねナイトメア!!」


爆発轟音、そして俺の前に迫る光の光弾。

それを俺はサッカーのゴールキックの如く、天高く蹴り飛ばす。


光のミサイル、光の剣、光のマシンガン。

それら全てを、俺は難なく処理し続ける。


「なあ、ライト。もうやめようぜ」

「黙れ! 俺は負けないんだ!!」


完全に頭に血が昇って、俺の言うことも聞こえてないようだ。

なら仕方ない。鉄拳制裁だ。


「あばよライト」


パンチ一閃。俺の一発でライトは吹き飛んだ。


「アブオオオッッ!!」


ドカーン!と轟音を立てて、頭からゴミ捨て場に突っ込むライト。

見るとアクアは完全に腰を抜かして、股から何かがチョロチョロと漏れている。


「ひぐっ⋯⋯ひぐっ」

「勝手に襲ってといて泣くのは無しだろ。当然、君も鉄拳制裁は受けるんだよな?」

「や、やめてえ⋯⋯⋯!」

「やめてもクソもねえよ。夜道襲っておいて泣かれて許すほど、俺は人間出来てねえぞ!」


俺は敢えて、猛烈に脅す。

一々襲ってこられたら俺だって面倒だ。ここはガツンと言ってやる。


と、その時だった。


「やめろ!! 妹に触るな!!」


ボロボロになりながらライトがアクアの前に立つ。


「妹に近づくな! このバケモノ!」


そう言い残して、ライトはアクアを抱えるとそのまま消えていった。

少しは俺にも分かるような形で話を終わらせて欲しい。


「ったく、何なんだったんだ⋯⋯?」


良く分からないが、取り敢えず俺は超人を撃退することに成功したらしい。

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