「ハクをつける、ただそれだけの目的だったが、最後の最後で賭けに勝ったな」 「まぁ、アルゴさんなんでwww」

 

「……開いたな」


 戦闘の後。

 改めて方法を探っていたアルゴは、音もなく開いた扉を見てアゴを撫でた。


「いや、マジ苦労した甲斐があったスねwww」


 床に座り込んで片膝を立てているイーサが、いつもの口調で答える。


 答えは、穴の中にあった。


 石板のあるところは、結局腕を焼かれなかったのでじっくりと手で探ると、左右にわずかな空間があるのが分かったのだ。

 そこには、薄く小さい石板と、鍵が置いてあった。


「多分、予備スねw」


 この手の古代遺跡にはまれにある、と、どこかで読んだらしく、イーサはそう告げた。


 石板には古代魔導文字が書かれており、それが扉の魔法陣の『ぱすわーど』だったのだ。

 鍵は当然、鍵穴にはまって回せるもの。


 これ自体もどういう構造になっているのか、意味が分からないほど難解な凹凸がある。


「で、結局、一体、この奥はなんなんだ?」


 イーサと一緒に覗き込むと、扉の奥には広大な空間があった。

 そこには同じ部品が置いてある長い台や、その台が中に続いている妙な箱などが連なっている。


 さらに奥にあるのは、記録用魔導球と呼ばれるものらしい。


「多分、工場こうばスねwww」


 しばらく休んで、オデッセイにウルズを背負わせてさらに奥に向かう。


 するといくつか同じような形の空間があり。

 それぞれに『はんがー』というらしい台に置かれたカラクリや、いくつかの呪玉、さらに、お宝の液体が入った金属の筒が纏められた茶色い紙の箱などがそれぞれに並んでいた。


 行き止まりは土のトンネルになっており、中を覗くとどうやら何かを発掘しているような痕跡がある。


「鉱物の採掘場に似ているな」

「多分まんまスね。山から素材を手に入れてたっぽい感じスかねーw」

「どちらかと言えば、土を運び出していたような感じだが」

「錬金術でも使えるんじゃないスか?w」


 適当だと思ったが、そもそも古代文明の叡智は、魔導士ギルドでも、未だに一端しか解明されていないらしい。


「要は、ここでカラクリや呪玉、液体を作ってたんじゃないスかねーw」

「お宝は大量にあるが、思っていたような場所と違うな」

「何言ってんスかwww 人類史上最高の発見スよ、これwww」

「どういうことだ?」


 アルゴの疑問に、イーサは、ニヤニヤと笑いながら答えを告げる。


「カラクリや、呪玉、液体の生成技術のすいが、完璧な状態で残ってるんスよ?」

「ああ」

「この場所で見つけたモンや中身の詳細を魔導士ギルドに提供したり、研究用として公開するだけで、一生生活に困らない莫大なカネになるんスよ!!www」

「ほう」


 アルゴは、その言葉にニヤリと笑った。


「苦労した分の見返りとして、最高のお宝だということか。この場所そのものが」

「そういうことスねwww」


 ウェーイ! と手を上げるイーサに、アルゴはパァン! と手のひらを叩きつけた。


「ボクはゴーレムに仕返し出来たから、もうそれだけで満足だねー」

「帰ったら、いっぱいご飯食べましょう! お金があるって素晴らしいことです!!」

「やっぱテメェは大物だよ、アルゴ」

「古代文明の叡智……エルフの街でも、報告すれば喉から手を伸ばす者たちが多くいそうだ」


 ギルド設立の資金源。

 スオーチェラのみの財力に頼らずとも、より大きく手がけることが出来るかもしれない。


「いいぞ。風向きが変わった」


 今までの商売は、向かい風だった。

 その中でも努力はしてきたが、結果は金貨百万枚の借金だ。


 しかし、これは確実に一発逆転だと言えるだろう。


「ハクをつける、ただそれだけの目的だったが、最後の最後で賭けに勝ったな」

「まぁ、アルゴさんなんでwww」


 イーサが笑うのに、軽く眉を上げてみせた後。

 アルゴはとりあえず持てるだけのお宝を持って、仲間たちとその場を後にする。


「とりあえず鍵と『ぱすわーど』は俺たちで持っておいて、扉を閉めよう。ゴーレムは出て来なくなったが、代わりに呪玉を直すカラクリもいなくなったしな」

「まぁ、順当スね。でも持ってることバレたらヤバくないスか?」

「金が出来るんだ。それがあれば方法はいくらでも考えられる。……例えば、『煉竜傭兵団ヴォルカニック・ドライヴ』や『雷迅の戦団ライトニング・アサルト』を雇い入れて、護衛につけるとかな」

「ご主人様……!」

「へぇ。それは助かるかも」


 なぜか感激したような顔のウルズと、面白がっているような笑みを浮かべるエルフィリア。


「他にも、よそのギルドや個人でやってる連中を雇い入れて、強固な体制を作る。商会ギルド長も、あの連中にうんざりしているだろうしな。引き込めればコネが使える」


 そもそもギルド長はアルゴを除名するのに反対していたので、彼自身に悪意は持っていない。

 

 扉を閉めて地上に向かいながら、アルゴはふと思い出して首をかしげた。


「……そう言えば、結局腕を焼かれなかった理由は何だったんだろうな?」

「ただの脅しだったんじゃないスかwww 簡単にゴーレム止められたら門番の意味ないスしwww」

「そうかもしれんな」


 そんな、たわいもない話をしつつ、帰路に立った。


※※※


 遺跡内部。


 アルゴたちがその場を後にすると、石板がブゥン、と青く光り、「א」の文字が再び浮かび上がった。

 すると、扉の結界も復活し、何体かのカラクリが姿を見せると、二つの集団に分かれる。


 片方は自販機の修理に向かい、残りは扉の横に隠されていたカラクリ専用の作業口から中に入ると、呪玉を持ち出してきて、結界装置の修理を始めた。


 彼らの緊急停止ボタンがある、扉横の穴。

 そのかすれて消えた部分には、こう記されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    【非常用】


 緊急停止ボタンです。

 侵入者排除システム『オートマタ暴走』時以外、触るべからず。


 אמתの 「א」を押して「מת」にすることで、全オートマタの稼働が停止します。


 注:人体腕部以外を挿入しないで下さい。セーフティネットが作動して灼熱魔法が行使されます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

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