「ウルズ、エルフィリア。……頭や胸元、どこでもいい。切り裂いて隙を作れるか?」 「任せて下さい!」 「やってみるねー」
ーーーここだ。
サンドラは、目で追うことすら出来なかったエルフィリアがゴーレムの腕を断ち落とすのを見て、引き絞った弓の狙いどころを見つけた。
中に覗いたカラクリの隙間に、矢を放つ。
大した威力はないが、カツン、と音を立てて金属製の鏃(やじり)が、元のカラクリの形が残る隙間に突き立つ。
それと同時に、エルフィリアが落とした前腕と、ゴーレムの残った二の腕からそれぞれに管のようなものをが伸びて絡まり合い、腕を引き寄せた。
腕は突き立った矢の木製の棒部分をへし折って、再びくっついたが……鏃(やじり)と残った棒が挟まって、完全な再生はしない。
腕の動きが明らかにぎこちなくなったことで、サンドラは手応えを感じた。
「アルゴ!」
声を掛けると、オデッセイの後ろでジッと状況を見つめていた商人は、正確にその意図を汲み取る。
「ウルズ、エルフィリア。……頭や胸元、どこでもいい。切り裂いて隙を作れるか?」
「任せて下さい!」
「やってみるねー」
ーーー流石だな。
サンドラは慎重に、巻き込まれれば大怪我では済まない戦闘から、矢の届くギリギリの距離を保ちながら、矢を番(つが)える。
アルゴ・リズムという男を、サンドラは不思議な存在だと思っていた。
今の状況を見ても、共に旅した道程を見ても、彼自身に魔物を狩るような力はほぼない。
だが、短い間一緒にいただけでも分かるほど、彼の芯は揺るがない。
何を考えているのか分からないところは、確かにある。
そして何をしでかすのか分からない危うさも、持ち合わせている。
金を儲けることに余念がなく、自分の命すら惜しくないのかと思うほどに大胆な行動には、驚かされっぱなしだ。
ーーーだが、彼はわたしとシシリィを、助けてくれた。
森の中で、彼女の悲鳴を聞いて、金の匂いを嗅ぎ付けたわけではないだろう。
その後、貴族から金を分取ってはいたが、それはあくまでも結果だ。
イーサの話を聞いても、ウルズの話を聞いても、オデッセイの話を聞いても。
彼は、いつだって|人(・)を見ている。
分かりにくいし、誤解もされやすいだろう。
しかし彼の根底にあるのは、圧倒的な弱者への善意なのだと、サンドラは思っていた。
道案内を請け負ったのは、借りを返すためだ。
それ以上の理由などなかったはずなのに……気付けば、このSランクダンジョンの奥深くにまで共に足を運んでいた。
手前まででも、良かったはずだ。
入り口に案内した時点で、引き返しても良かった。
そうしなかった理由は、自分でもよく分からない。
アルゴはそんな風に、気付けば人を……サンドラのようなほとんど見ず知らずの相手までもを、巻き込んでいく、台風の目のような男だった。
アルゴは、横のオデッセイと何かを話している。
そこで、ゴーレムの意識を引きつけていたウルズが、何度目かの拳の一撃を避けて、大きく跳んだ。
「ガァルァアアアアアアッッッ!!!」
裂帛(れっぱく)の気合と共に、両手を思い切り振り下ろし、凄まじい衝撃を頭に叩きつけられたゴーレムが、ガクン、と頭を落とす。
そこに、閃光が疾った。
目で追えない、刀(カタナ)の刃が描く光の軌跡を、サンドラはエルフィリアだと認識する。
ーーー頭が、落ちる。
予測通りに、走り抜けたエルフィリアから少し遅れて、ゴーレムの首に当たる、他と比べて少し細い部分がズルリと斜めにズレた瞬間。
「ーーーッ!」
意識を研ぎ澄ませ、時間が引き伸ばされるような極限の集中を持って、サンドラは矢を放つ。
その一射は、寸分違わず狙った場所に……ゴーレムの首の隙間に、突き立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます