「出来るのか?」 「任せて下さい、ご主人様!」


「ここか」


 シミュレート・スライムの採取に満足して上機嫌のアルゴは、たどり着いたSランクダンジョンを前にして、少し崩したオールバックの髪に両手の指を通した。


 気分を入れ替えて見ると、ダンジョンの入り口は大岩によって封鎖されているようだ。


「これを破壊するのか」

「そのくらいの技量がないと、そもそも挑戦するのが無謀だからねー」


 エルフィリアが、魔物狩りギルドで買えるSランクダンジョンの内部図を描いた資料を手に答える。


「出た後は、元に戻すようにって注意書きしてあるけど」

「……どこから岩を調達するんだ?」


 地の魔法に熟達した魔導士でもいれば話は別だが。


「まぁ、入口を崩せばいいんじゃない? 攻略したら魔物が消えるダンジョンとかもあるし、帰る時に考えれば良いんじゃないかな」

「なるほどな」


 原理はよく分からないが、そうなれば問題はない。

 違えば、それこそ採取したスライムを起爆させて破壊すればいい。


「岩を壊すんですかー!? そういうのなら、イモい私が得意です!!」


 ハイハイ! と手を上げて立候補したウルズに、オデッセイが疑わしそうな目を向ける。


「……テメェが、か?」

「〝暴食の銀狼〟のお手並み拝見、といったところだな」


 サンドラも、エルフィリア、イーサも譲るようなので、アルゴもウルズに声を掛ける。


「出来るのか?」

「任せて下さい、ご主人様!」


 断崖の入り口を覆う岩の前に立った少女は、軽く前後に足を開いて腰を落とすと、左拳を前に出して、腰元に右の拳を引きつける。


 そして。


「破ッ!!」


 凄まじい速さの右拳が大岩に叩きつけられると同時に、凄まじい轟音が響き渡った。

 拳を突き込んだところから、大きく八方にひび割れが走り、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


「オス!!」


 残心の後、崩れる岩を避けて飛びのいたウルズは、体の前で交差させた両腕をビシッと両腰に下げて、こちらを振り向く。


「どうですかご主人様様ー!!」

「よくやった」

「報酬は、街に戻った時のおやつがいいです! 甘いとさらに嬉しいです!」

「善処しよう」


 そのくらいならば安いものだ。


 獣人だから、というだけではない頑強さと怪力である。

 実際、その力を目の当たりにするとウルズは中々に素晴らしい逸材で、最初はただの売り子として拾ったことが信じがたい。


「……お前、その【契約の腕輪】はいらないんじゃないのか?」


 腕に嵌まらないので首につけたそれは、元はと言えば、美貌を持ち食欲旺盛な彼女が、飯に釣られて悪意のある連中に引っかからないように、と交わした契約である。


 アルゴがジッと見つめると、ウルズは慌てたように前髪で目元を隠して肩を縮こめる。


「う、麗しのアブないご尊顔でこっちを見ちゃダメですー!! 溶けますー!! それと不自由ないので首輪はこのままで大丈夫ですー!!」

「……そうか」


 本人が良いのなら、アルゴとしては有用なので文句はない。


「いやー、中が楽しみスねぇwww」


 エルフィリアの手元にある内面図を覗き込んだイーサが、二度三度うなずく。


「中は、古代文明由来のダンジョンなんスね。魔導書とか残ってると嬉しいスねぇwww」

「最後の部屋以外は踏破されてるところだから、期待薄だと思うよー? ボクも良い武器とかあったら期待したいけどさ」


 ダンジョンは、ただ強い魔物が生息している場所と、古代文明などに由来する人工のものとに分かれるのだ。


「イーサは、魔導具とかじゃなくて本なんだね。ちょっと意外」

「オレ、趣味が読書なんでwww 洒落たモンならいいスけど、無骨な道具とかはあんまいらんスねー。モテないスしwww」


 ただのローブをオシャレに着こなすイーサらしい物言いと、相変わらず楽観的な調子に、オデッセイが首を横に振る。


「オレ様、このバケモノどもの中だとマジで場違いなんだよな!」

「そんなことないんじゃない? アルゴが認めたんだしさー」


 慰めるように肩を叩くエルフィリアに、イーサもうなずく。


「そうスよw 馬鹿でかい声でシミュレート・スライムすら止める特技あるスしwww」

「何の自慢にもならねーだろ!!」


 アルゴは片頬を上げて笑みを浮かべると、彼に告げた。


「度胸があれば大概のことは片がつく。小心なところだけ直せ」

「テメェやイーサみてぇな底抜けのメンタルは、度胸があるっつーんじゃなくて頭がおかしいっつーんだよ!!」

「それ自体には、同感だな」


 サンドラがオデッセイに同意を示すが、別にアルゴにはどうでもいいことだ。


 別に、出来ることは出来る奴がやればいいのである。

 その為に人材を集めているのだから。


「とりあえず、中に入るぞ。さっさと最下層まで行って、攻略する」

「|謎解き(リドル)とかあると面白いんスけどねwww」

「道中の魔物退治は頑張りますー!!」


 期待感を高めているらしいイーサと、張り切るウルズ。

 そんな獣人少女の頭を、アルゴは軽く撫でた。


「期待している」

「はい!」


 ウルズは、満面の笑みで返事をした。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る