「儲けはなかったが、宝は手に入ったな」 「順調スねーw」 「テメェら何もしてねーだろうが!!!」


「せぇ……りゃぁ!!」


 ダンジョン内部。

 気合と共に、両手を獣人特有の能力である〝獣化〟で大型肉食獣のそれに変化させたウルズが、魔物の腹に掌底を撃ち込んだ。


 カラクリ人形に似たそれが、強固な金属の体を破壊されて真っ二つになり、バラバラと中に収まったモノをぶち撒けながら吹き飛ぶ。


「……」


 エルフィリアも、無表情にカラクリ人形の体の隙間を狙って刃を振るい、手足が動かなくなったカラクリがその場に倒れ込んだ。


 力任せのウルズと、技巧のエルフィリア。

 動と静の対照的な動きで、彼らが次々に魔物を屠っていく背後で。


「なるほど、古代遺跡のダンジョン、というのは奇妙なものだな」

「オレも初めて見たスねぇ〜。壁面の素材とかは結構見たことあるんスけどねーw」


 アルゴは、イーサと共にダンジョンそのものへの興味を語り合っていた。

 壁を撫でてみると、継ぎ目がない。


「これはどういう理屈だ?」

「溶かしてくっつけてるか、大きな一枚板なんじゃないすかね? 木を曲げる技術とか、鉄を成形する技術のもっとスゲェ奴って言われてるスよw」

「……溶かしているにしては、凹凸もないが」

「だからスゲェんスよwww」


 ダンジョン、と言われて、外観から土の洞穴を想像していたアルゴは、全く未知の領域であるこの場所に、少し興奮していた。


 中に足を踏み入れると、すぐにこの、壁にも床にも継ぎ目のない施設のような場所に入ったのである。


 内面図の整然とした様子は、単に簡略化しているだけかと思っていたのだが、実際に中は内面図とほぼ同じような状態だった。


 大小の部屋が並んでおり、その部屋の前に扉を示す横線が引かれている。

 階や外壁の形によって部屋の大きさや廊下の走り方が違ったりするが、まっすぐ伸びている廊下が縦横に等間隔に並んでいたりと、明らかに人工のものだ。


 廊下には今、ウルズたちが破壊しているカラクリがいて、掃除などをしている様子が伺えた。

 こちらの姿をみると手を止めて近寄ってくるのだが、まるで部屋を掃除しているかのようである。


 先ほどからビービーとうるさい音が鳴り響き、赤い光が奇妙に回転しつつ奇妙な頭上からこちらを照らしているが、体に害はなさそうだ。


 途中で見つけた部屋を覗き込んだアルゴは、眉根を寄せた。


「この、奇妙な部屋はなんだ? 光るハコが並んでいるが」


 そのハコが左右に二つずつ並ぶ部屋の真ん中には、床に固定された丸く小さいテーブルのようなものがある。

 ハコの横には、丸い穴が二つ空いたフタを持つゴミ箱のようなものが一つ、置かれていた。


「よく分かってない、って資料に書いてあるスね。透明な『ぷらすちっく』っていう柔らかいガラスみたいなのの中に収めてあるいくつかの丸い筒は、高品質の紙で出来てるらしいスよ」

「ほう」


 アルゴは、その光るハコを触りながら観察した。


 ハコそのものは金属で出来ており、赤く塗られている。


 『ぷらすちっく』とやらが嵌め込まれているのは、ハコの上部。

 それぞれに筒のようなものが等間隔で収められていて、その下にそれぞれに対応するように、黒い『ぷらすちっく』の小さなモノが並んでいた。


 軽く押せるようで、触ってみると、何かの表示が浮かび上がる。


「ちょw アルゴさん!?w」

「……魔導文字か?」

「魔力反応はないスね」


 しかし何が起こるわけでもなく、ただ文字が浮かぶだけのもののようだ。


「なんと書いてあるか、読めるか?」

「えーと……前半は数字スね。2、4、0。……後半の文字は、イェン、す」


 240イェン。


「……意味が分からんな」


 そして下部には、やはり『ぷらすちっく』の嵌められた大きな口があり、触ってみると開くようになっているようだ。


「不用意に手を突っ込むと、食われるかもしれないスよwww」

「そんな様子はないが」


 中には何もなく、用途が分からない。

 ハコ自体は、細々したものを除けば、それくらいしか構造的な部分はないようだった。


「この筒にはなんと書いてある?」

「えーと、『ふぁんたすてぃっくおれんじ』『よつやさいだー』『でぃーでぃーれもん』『こーく・こーら』『なっちんあっぷる』『おおやまてんねんすい』とかスね」

「意味が分からん」

「意味は解明はされてないスけど、資料によると……壊したら、中に、この筒に書かれてるのと同じ形の金属の筒が入ってるらしいス。中は液体で、誰か飲んだ猛者がいたっぽいスね」

「ほう」

「『刺激物が幾つかと、果汁みたいな味。大体甘い、たまに酸っぱい、そしてウマい。刺激物はクセになる』って書いてあるス」

「……なんだそれは」


 毒ではない、ということは、ポーションのようなものだろうか。

 薬品を収める棚なのかもしれない。


「持って帰ると、ちょっと儲かるかもしんないスね」

「よし、なら壊そう。オデッセイ、お前、ちょっとその槌でこれを壊せ」


 アルゴが部屋の入り口で、わらわらと集まってくるカラクリをぶっ叩いているオデッセイに声を掛けると。


「そんなことより、こっち手伝えよ!? あいつら軽々ぶっ壊してるけど、コイツらめちゃくちゃ硬ぇんだぞ!?」

「俺に戦闘能力を期待するな」

「こんなトコでイフリートとか火炎球撃ったら、暑すぎてヤバいことになるスよwww そもそもそいつら、炎以外の魔法効かないスしwww」

「マジかよ!?」

「ウルズ、エルフィリアさん! 少しこっちまで戻ってもらえませんか!?」


 弓使いで近接戦闘が苦手らしいサンドラが悲鳴を上げると、調子良くカラクリを始末していた二人が戻ってきて、オデッセイの手が空く。


 ある程度カラクリの襲撃が落ち着いた頃には、中から薬品を全て取り出すことが出来た。


「儲けはなかったが、宝は手に入ったな」

「順調スねーw」

「テメェら何もしてねーだろうが!!!」


 オデッセイの怒鳴り声に、他の三人も同意するようにうなずいた。

 

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