「エロい体してるエルフさんには、個人的には情報よりもヤラせてくれる権利を貰いたいスねwww」 「……お前、殺されるぞ」

「話のついでに、一つ聞きたいことがあるのだが」


 サンドラは、ウルズの正体が分かったところで口を開いた。


「何だ?」

「炎の上位精霊を召喚する魔導士に、傭兵団の切り込み役、それに高位魔物狩りに頑健な戦士……これだけの面子を揃えて、一体あなたは何をするつもりだ?」

「揃った面子自体は単なる成り行きだが」

「だが、あなたが音頭を取っているように見える。これだけの顔ぶれを揃えて従えるなど、並大抵のことではない」


 アルゴは、その問いかけに片頬を上げた。


「ただの商人だ」

「では、彼らを金で雇ったのか?」

「きちんと契約は交わしている。当然の話だ」

「雇い主だというだけではないように見えるが?」

「募集をかけたわけではないな。そう、友人と呼ぶには浅いが、偶然知り合って意気投合した、というところだ」

「ではやはり、ただの雇い主ではない。そして特に目的もなく雇われる面子とも思えん。あなた自身に何かがなければ」

「と、言われてもな……」


 イーサとウルズはともかく、残りの2人は成り行きで縁が出来ただけなのは、事実だ。

 それに狼娘自身も、正体を知って戦闘力を買ったわけではないのは、今言った通りなのである。


 目を向けたオデッセイとエルフィリアが、顔を見合わせて口々に言った。


「商人なのは事実だがな!」

「まぁ『ただの』商人ではないよねー」


 視線が外れて復活したウルズとイーサも、うんうんとうなずく。


「アルゴさんはデケェんスよ! どこまでもついて行くスよwww」

「ご主人様がお腹いっぱいご飯を食べさせてくれるって約束してくれたのです!」


 そこで、シシリィがサンドラの服の裾を引っ張る。


「おねーちゃん、た、多分嘘じゃないよ……その人、魔力や練気の気配を感じないから……」

「そう、なのか?」

「でも、魂も強いし、体も強いよ……強い魂は、惹かれ合うから……」


 出会ってからここまで存在感を感じなかった少女の言葉に、アルゴは興味を抱いた。


「その娘は、何か特殊な力があるのか?」


 こちらの問いかけに、シシリィはビクッと体を震わせたが、サンドラがためらった後に口にする。


「……シシリィは、優れた目を持っている。遠見や過去視、また自分で力は操れないが、先読みの天啓を受けることもある」

「今回の件では、良いように働かなかったようだな」

「……嫌味か?」

「いや、事実を口にしただけだ。遠見が出来るのなら、助けた分の謝礼として、少し協力しないか」


 ちょうどいい、と思い、アルゴはサンドラに提案する。


「協力? 何だ?」

「俺たちはこの先の大森林にあるSランクダンジョンを踏破しようとしていてな。エルフなら、そもそも、その周辺には詳しいんじゃないのか?」

「Sランクダンジョンだと……?」


 彼女は、軽く眉をひそめた。


 エルフは、主に森の中で、自然と共に暮らしている。

 彼らの国は、人とは少し違う独特の文明を築いているのだ。


 容姿が秀麗で魔力の扱いに長ける彼らは、人に高く雇われることも多いので姿を見かける機会はそこそこあるのだが。


 サンドラも、先の街で装備を整えたが、本来弓使いであり、魔力との併用で精度が高く射程の長い弓射を行えることを聞いていた。


 しかし彼女が質問に答える前に、イーサが空気を読まずに余計なことを口にする。


「エロい体してるエルフさんには、個人的には情報よりもヤラせてくれる権利を貰いたいスねwww」

「……お前、殺されるぞ」


 あまりにも命知らずなイーサに、思わずアルゴは眉根を寄せた。


 ウルズの素性を知った上にエルフィリアやサンドラまでいる所で、よくそういう軽口が叩けるものだ、とアルゴは思ったのだが。


「え? 何か殺されるような話なんですか!?」

「野郎ってそういうことしか考えないよねー。昔酒場でもさー」

「ソイツの顔は、わたしの好みではない」


 三者三様に口にする女性陣だが、どうやら気分を害した連中はいなかったようだ。

 シシリィだけは頬を赤く染めていたが、荒くれ共の中で百戦錬磨の女性陣にしてみれば、そこまでアレな発言でもなかったらしい。


 ーーー慣れとは嫌なものだな。


 アルゴ自身も貪欲な連中の中で育ったせいで、正直そこまで欲を出しているつもりはなくても『金に汚い』と言われることが稀にある。


「紳士だね、アルゴは」

「単に場を弁えているだけだ」


 正直、イーサと2人なら女の話で普通に盛り上がっていたりする。


「まぁいい。話を戻そう。サンドラ。お前たちは大森林の出なのだろう?」

「それはそうだが……商人がSランクダンジョンに、何の用がある?」

「商人がどこかへ出かける時は、金目当てに決まってるだろう」


 不思議なことを聞くものだ、と思ったが、彼女は納得しない。


「財宝が目当て、ということか? だがあのダンジョンは、人族が最下層まで踏破していたはずだが」

「だが、最後の試練で止まっているのだろう?」


 試練の内容は、なんらかの代償を必要をするものだと言われている。

 どう言う類いのものかは分からないが、魔物が相手でないならばどうにかなる可能性があった。


「ダンジョンそのものは、内面図マップが作成されている。魔物自体は強いらしいが、なるべく戦いを避け、最下層に到達すれば内容次第で俺でも踏破可能かと思ってな」

「出来なければ?」

「報奨金の金貨10万枚がパァだな。だが、それでも最下層に到達したという程度のハクはつくだろう」


 スオーチェラとの交渉は、改めて行わなければならない可能性はある。

 が、成功するかしないかも分からない段階では、そんなことを考えるだけ無駄だ。


「……そこまでの危険を冒す、目的は? 金だけのためか?」

「最終的にはそこが目的だな。ギルドを一つ作りたいんだが、少し逆境でな。それを解消するためだ」


 軽くだけ説明すると、サンドラは理解はしたものの納得はしていないようだ。


「そんなことのために……か」

「俺にとっては命を賭けるだけの価値がある話なんだ。それで、最初の質問の答えは? 協力を得られるのか、得られないのか」

「ダンジョン周りのことを説明し、図画を書く程度のことなら喜んで協力するが、道案内までは無理だ」

「理由は?」

「シシリィを連れて行くには危険すぎるからだ。私自身も彼女から離れるのは……」


 まぁ、罠にハメられた直後だろうし、やむなしと言ったところだろう。


「それは仕方がないな。では、図画だけくれ」

「……それでも、難しいぞ。ダンジョンそのものよりも、道中が」


 死霊の住処や底なしの大沼など、行程にいくつもの難所があるらしい。


「事前に知っていれば、準備くらいは出来る」

「どうしても行くのか……」


 眉根を寄せたサンドラは、一つうなずいてから提案してきた。


「では、一度大森林の中にあるエルフの里に寄ってくれ。そこに信頼できる知り合いがいる。シシリィを預けられるのなら、私が案内しよう」

「助かる話だが、日程と報酬によるな」

「何の話だ?」


 美しいエルフの弓使いがキョトンとした顔をするのに、アルゴは軽く首を回した。


「あまり時間をかけたくはない。それに働いてもらうのなら、報酬は出して当然だろう」

「礼のつもりだが」

「連中から慰謝料はぶん取ったが、装備も失って無一文だっただろう。感謝の気持ちは飯のタネにはならん」


 助けた礼とSランクダンジョンへの道案内では、等価にはならない。


「多少安くはなるが、謝礼は支払う」

「……感謝する。商人というから、もっとガメついかと思っていた」

「いいことを教えてやろう。自分の利益しか考えない奴は、本来商人には向かない」


 その言葉に、アルゴはニヤリと笑った。


「ーーー他人に楽をさせることで、儲けるのが商人なんだよ」

 

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