「旨そうだな」 「どこがだよ!? どう見ても汁の色が『食ったらマズイ』って言ってんだろ!?」
「では、実食だ」
アルゴの言葉とともに、イーサ、ウルズがにこやかに鍋を見る。
グツグツと煮えた液体の色は、黄色から濁って黒く染まっていた。
白くプリプリとしたキノコは真っ白なままであり、香り立ちがとてつもなく良い。
肉も入れたかったが、ポーションそのものの味が塩気が強すぎるため、山菜とキノコの鍋である。
「旨そうだな」
「どこがだよ!? どう見ても汁の色が『食ったらマズイ』って言ってんだろ!?」
「ビビリすねぇwww」
「おっきな体して情けないですよ!」
オデッセイのバカでかい声の制止に、面白さ至上主義の魔導士と食欲魔神の獣人少女がそれぞれに煽りをくれる。
「テメェらがくたばりかけても、絶対ぇ担がねぇからな!? 人が忠告してやってんのに、痛い目みやがれ!!」
サジを投げたヒゲモジャの大男に対して、エルフィリアは食さないまでも興味津々だった。
「この黒いのは毒素とキノコのダシ、どっちだろうね? 香り的にはダシっぽいけど」
「食えば分かる」
こういうことに抵抗のないアルゴは、鉄串をキノコに突き刺すと、イーサとウルズにそれぞれ手渡した。
そして自分も手にすると、最初にかぶりついた。
歯でカサをむしり、噛むとじゅわりと旨味を含んだ汁が口の中に溢れる。
塩気は水の量で調整したものの、最初は原液の解毒ポーションで煮込んだので、多少の塩辛さが残っているが……。
「……食えるな」
「思ったより普通の味スねぇwww」
「あぁー! お腹とお口が満たされます!!」
そして、三人同時にゴクリと飲み込んだ……瞬間。
「「う゛」」
喉を通り抜けるキノコから、猛烈な塩辛さが吹き出し、鼻の奥に凄まじい刺激をもたらし、胃袋が跳ねた。
「ご……ぉ……!?」
「辛ぇええええええ!! う、おぇえ……!!」
昔飲んだ海水よりも、さらに気持ち悪さを増したような圧倒的な塩気に、思わずアルゴは口を押さえた。
なんとか吐き出すのを堪えたが、イーサは。
「おろろろろ……!!」
木の側にダッシュして、リバース状態になる。
「だから言っただろうが!!」
「アハハハハハ!!」
バカが! と吐き捨てるオデッセイの横で、エルフィリアが腹を押さえて笑い転げる。
「お、ぉ……スゲェ……ヤバすぎwww」
吐き終えたイーサは、気持ち悪そうな顔をしながらもヘラヘラと笑っていた。
アルゴもどうにか堪え切って、一人沈黙しているウルズを見ると。
「お前……なんで食えるんだ……?」
満面の笑みのまま、夢中で鉄串のキノコを食べ切り、さらにまた鍋に串を伸ばしていた。
「え? 美味しいですよー!! これ最高です!!」
ニコニコと告げるウルズに、オデッセイがあんぐりと口を開ける。
「嘘だろ……!?」
「獣人の胃袋が頑丈なのか、ウルズの味覚がバカなのか判断がつかんな」
「食べれるの!? アハハハハハ!! 食べれるんだ!! 凄い!!」
「なら全部食ってもらおう! あ、ウルちゃんの! ちょっと良いとこ見てみたい〜♪www」
アルゴが考えている間に、イーサがいそいそと鍋の中身を全て器に移し替えて、ウルズの前に置く。
彼女はそのままペースも落とさずに、汁まで含めて全て喰らい尽くした。
「はぁ〜……♪ おかわりしたいですぅ……」
「さすがにもう作らんぞ」
けぷっと満足そうに腹をさする彼女に、アルゴは呆れた。
性格もぶっ飛んでいるが、彼女はこと食に関してはありえない程に耐性があるようだ。
そう思っていると、ウルズの体からパチパチと音がした。
「……雷、スかね?」
「え?」
体の表面に走る黄色い光に、イーサが首を傾げて、ウルズも自分でよく分かっていないのか、体を見て目を丸くする。
「そういえばあの白キノコ、痺れも伴うって言ってたかな。痺れ毒が変化してる?」
「どういう理屈だ」
「さすがに、サンプルが少なすぎてよく分かんないスねwww」
結果として、吐き気を感じる塩辛さ以外に特に体に異常はなく、アルゴとイーサには電撃が走っていなかった。
「汁のほうに何かあったのか?」
「可能性はあるスねぇw」
痺れ毒の毒素が滲み出し、汁になった解毒作用と何らかの反応をしたのかもしれない。
「まぁ、結果として食えはしたが、非常食程度にしかならんか。汁の効果が分かれば売り物にはなるかもしれん」
体に電撃を纏う効果が、一体何の役に立つかはよく分からないが。
「身を守る役には立つんじゃない? あー、お腹いたーい」
身をよじり、涙目になるほど笑っていたエルフィリアが、残った汁を指先ですくってペロリと舌に乗せた。
「あー、うん。体内の練気が反応してるから、多分解毒作用で毒素が抜けたら、何かの効果があったみたいだね。魔導薬の発見かもー」
「なら、悪くないな。色々と試してみるものだ」
ウルズの強靭な胃袋のおかげとも言えるので、アルゴは報酬を出すことにした。
「この魔導薬が売れたら、お前にいくらか利益をやろう。レシピを売るか、モノを売るかで変わってくるが」
「ほんとですか!? やったー! ……で、これ、どうやったら消えるんですかねぇ?」
「知らん。とりあえず近づくな」
しっし、とこちらに近づいて来ようとするウルズに、アルゴは邪険に手を振った。
電撃は彼女が動くと威力を増すようなので、治まるまで待つしかなさそうな気配がする。
「うぅ、それはそれ、これはこれ感が強いです……」
「当たり前だろうが。借金があっても死なないが、消し炭になったら普通に死ぬ」
彼女に触れた草などが、今まさに燃えて消し炭になったりしているのである。
「命あっての物種だ」
「毒キノコ食おうとした奴のセリフじゃねースよwww」
と、イーサが笑ったところで、不意に、辺りに甲高い悲鳴が響き渡る。
全員が一瞬で警戒すると同時に、エルフィリアとイーサがそれぞれに呟いた。
「
「魔力の気配ス。弱いのと強いのがペアで、二つずつ。……片方は高台にいるスね」
「魔物か!?」
オデッセイが自前の武器であるウォーハンマーを手にすると、ウルズがクンクンと鼻を鳴らした。
「花の香りに似た香りがしますねー。これは……エルフ?」
「え、ボク?」
「あ、いえ。耳長族のほうです!」
アルゴは、腰を上げながら目を細めた。
どう考えても、厄介ごとの臭いがする。
関わってはロクなことにならなさそうな気もするし、こんな山の中での揉め事には金の匂いもしない。
「……どうするんスか?」
イーサの問いかけに、アルゴは片頬を上げて笑った。
そして軽く崩したオールバックに、両手の指を通しながら答える。
「逃げるよりも、助けに行く方が寝覚めが悪くないな。情報が曖昧なままでは気になって眠れん。繊細だからな」
「素直じゃないスねーw」
「行くのね。どうするの?」
大太刀を引き抜いたエルフィリアに、アルゴは問いかけた。
「高台の位置は分かるか? どのくらいで着く?」
「この辺りは庭だよ。一人なら、そうだね……十分てところ」
「では、俺たちは下だ。イーサ、魔法の準備をしろ」
「うスw」
「え、イーサさんって魔法使えるんですか!?」
今驚くべきはそこではない。
エルフィリアが山肌を蹴って消えると、残りの全員で戻りの山道を駆け出す。
「ウルちゃん、オレ、これでも一応、魔導士学校の学年主席スよーw そこそこ魔法は使えるスw」
「そんな風に見えないんですけど……」
「なら、見て驚け」
アルゴは二人の会話に割って入り、イーサとウルズを先頭に立てた。
魔力の気配と、匂いの両面から居場所を辿るのだ。
「オデッセイ。イーサたちが狙われても平気なように、出来るだけ近くにいろ」
「おう!!」
そうしてしばらく走り続けたところで、再び、悲鳴が上がった。
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