「いかがでしょう?」 「構想は素晴らしいものですね」

 スオーチェラは、言いたいことを言い終えたようだった。


「わたくしに用があったように、貴方がここに赴かれた目的について、どうぞお話しください」

「分かりました。……私は、この都に……いずれは国中を席巻する新たなギルドを作ろうと考えています」


 アルゴは意識を切り替えると、話を。


「夫人を相手に腹芸は無意味でしょうし、単刀直入に言いますと、そのギルド設立の際にパトロンになっていただきたい」

「なるほど。では、幾つか質問をしても?」

「もちろんです」

「では最初に。支援を行うわたくしのメリットは? アルゴ様は、先日の件で莫大な借金があるようです。己の信用に関して、ご理解されていることと思いますが」


 そこに関しては、知っているだろうし、聞かれるだろうとも思っていた。

 アルゴに関してあれだけ調べ上げた相手だ。


 甥に関することとそれとは別の話、ということも分かるし、最初からそんな情に甘えるつもりはなかった。


「私が作ろうとしているのは、商会ギルド、傭兵ギルド、魔物狩りのギルドから既得権益を取り上げ、それらの業態を複合した『冒険者ギルド』という組織です」


 素材の収集から買い取り販売、人材派遣に至るまで。


「それらの組織間にある煩雑な手続きや利権競争を廃し、利用者に公平な組織を作りたいと考えております」

「現状では足りない、と?」

「逆に夫人は、足りているとお思いでしょうか?」


 切り返すと、スオーチェラは沈黙した。


 質問はするが、答えない。

 力関係を考えれば当然の態度であり、交渉の常套手段だが……こちらが攻める番であれば遠慮する必要はない。


「いかがです?」

「どういう点が問題だと?」


 やはりはぐらかされる。

 彼女は、その中身について熟知しているだろう。


 その上で、その腐敗を受け入れつつも立ち回っていた立場にあるのだから。


「物流において重要な基本は三点。安定的な生産・買い取り、確実な運搬、そして適性な価格での販売です」


 寒暖や生産されるもの、出没する魔物などは地域によってちがい、必要なものが違うのだから当然価格は変わる。


 その差異が輸入や輸出による儲けに繋がり、運搬者の利益になる。


 また物の価値は在庫量によって変わる。

 希少なものは高くて当然だ。


 アルゴが薬草の売り抜きで儲けようとしたのも、その需要と供給のバランスが崩れようとしていた所に目をつけたのだから。


「商機は重要です。しかし、それはあくまでも安定的な商品の提供と、生産者や魔物狩りを行う者が暮らしていけるだけの安定の元に成されねばなりません」


 アルゴが市場を取り仕切る前は、恣意しい的な値つけ競争や談合により、実際に立ち働く者の利益への搾取が横行していた。


 また商品の扱いに関しても、魔物素材や装備品であれば魔物狩りギルドが、魔導具や食料品であれば商会ギルドが、あるいは傭兵ギルドが、それぞれに買い取りや販売をしている。


 だけなら、まだ良い。


「問題は、その中で庶民に売るのは商会ギルドが、旅や狩りをする者には魔物狩りギルドが、傭兵たちに対しては傭兵ギルドが、それぞれに一括で販売をする権利を手にしていることです」


 魔物素材が必要な庶民、衣服が必要な魔物狩り。

 そうした人々に対しての供給は、現状の身分によって価格が違う……ギルド同士でのやり取りによって、仲介者が増えているからだ。


「そして癒着によって、結果、彼らが物の価格を決めることが出来、中間手数料を搾取し放題な状況が、今です」


 一部の者たちが甘い汁を吸い、還元されない体制は今でも変わっていない。

 アルゴが多少の不公平を是正したところで微々たるものだった。


「競合する組織がないことや、価格是正が行われないこと。これが問題でないわけがない」


 商会ギルドのギルド長は立ち回りが巧くある程度公平な人物ではあるが、幹部会を抑え込めるほどの力はない。


 さらに都市部には人手が集中するが、田舎に行けばそもそも魔物狩りを行う者や行商に訪れる者も少ない。


 手に追えない魔物が現れたり、冬や夏を乗りきるのに足りないものがあれば街に赴き、そのせいで買付をする側も足元を見られているのが現状なのだ。


「冒険者ギルド、というものがあれば、それが可能になると?」

「可能です」


 アルゴは言い切った。


 構想する冒険者ギルドは、国の主要な都市や街全てに出来る限りの支部を設立し、情報網で繋いで依頼の受付や共有、同一価値での取引を行う組織だ。


 個人や村、あるいは都市単位での魔物退治。

 護衛などの人材派遣依頼の受付。


 それらによって、受け手側にも同一難易度統一価格での依頼の安定供給が可能になると、アルゴは踏んでいた。


「国の経済が安定し、民が潤うのは夫人がた貴族にとっても益となるはずです。いかがでしょう?」


 アルゴが尋ねると、そこで初めて、スオーチェラは質問に対して答えた。


「構想は素晴らしいものですね。……ですが、アルゴ様の借金に関する答えがまだ、いただけてませんね」

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