「魔術師学校、やめて来たっス!」「お前頭おかしいんじゃないのか?」

 

「魔術師学校やめて来たス! ついでにオヤジにめっちゃ怒られたけど、無視って出てきたっス!」

「お前頭おかしいんじゃないのか?」


 別れて翌日、相変わらずどこから見ても整った顔をしているイーサが、来て早々晴れやかな笑顔で告げた言葉に、アルゴは思わずそうツッコんだ。


 コイツは魔術師学校の首席だった筈だ。


 しかも貴族……詳細は知らないが、かなり位の高い貴族の息子らしい……ので、そのまま暮らせば将来安泰で金も稼ぎ放題のはずである。


「誰もやめろとまでは言っていないが」

「でも、外に出たり飛び回ったりするんスよね? だったらどっちにしろ通えないスからね! 学校つまんないスし!」

「バカか。そこでのコネが何かの役に立つかも知れんだろうが」


 信用や人との繋がりは金より重い。

 金は人について来るものだからだ。


「でも、Sランクダンジョン踏破するんしょ? 一人で行く気スか?」

「お前も来るのか?」

「とーぜんスよ!」


 ギルドを立てるには、資金もそうだが腕っ節があったり有能な連中、パトロンを探す際のハクがいる。


 それを考えた時にアルゴが思いついたのは、手っ取り早く分かりやすい功績を立てることだった。




 ーーード素人の商人が、Sランクダンジョンを踏破する。




 これ以上分かり易く強烈な名声を響かせる手段は他にないだろう。


「まぁいい。とりあえず、その為にも手伝え」


 言いながらアルゴは、薬草を掴み取ると机に置いた秤に載せる。

 それをするには、まず資金集めだ。


「てゆーか何スか、それ?」

「見れば分かるだろうが。薬草だ」

「いや、そうじゃなくて」


 言いながらも前にある椅子に座ったイーサに、アルゴは秤と自分が仕分けしているのと別の大きな袋を渡す。


「昨日、あの後外に出て徹夜で摘んできた」

「朝まで!? よく魔物に喰われて死ななかったスね!?」

「足と鼻の良さには自信がある。喰われる奴が間抜けなだけだ」


 奴らは臭いので、近くに来たらすぐに分かる。


「ありえねー!!www どう考えてもアルゴさんの方がおかしいっス!!www」


 爆笑しながら手を叩くイーサは、別にアルゴをバカにしている訳ではない。

 コイツは単に、何でも面白がる性格をしているだけだ。


 アルゴは、彼のそーゆーところが気に入っている。


「てゆーか、よく昼過ぎから外に出る許可出たっスね。商人ギルドのライセンスないっしょ?」

「魔物狩りギルドのライセンスも持っている。外に出るのに便利だから取った。Fランクのままだが」


 資格は持っていて損はない。

 別に商人ギルドに所属しているからといって、別のギルドに入ってはいけないというルールもない。


 しかしイーサは納得しなかった。


「それにしたって普通、Fランクで外出ないスwww」

「どうでもいいだろうが。いいから手伝え」

「うス。で、この大量の薬草どうすんスか? 売るにしてもクソ安いっしょ?」

「いや、薬草はあっと言う間に高騰する。そこで売り抜ける」


 淡々とアルゴは答えた。


 確かにイーサの言う通り、少し前までは安かった。

 外に出る魔物狩りや傭兵連中は、自分が使う分は自分で取るし、街売りは薬屋の領分であり、わざわざ他から買う連中も少ないのだ。


「何で、値上がりするって分かるんスか?」

「ポーションの材料だからだ」


 ポーションは、薬草から作れる即効性がより高い治療薬である。

 しかし、魔術師ではない人間の手で作ると違法製造になる。


「ポーションの元になる薬草を集める奴が減っている。普通の魔術師は、ポーションを作らずとも他のことでいくらでも稼げるからな。つい先日、大きな戦争が終わっただろう?」

「そうスね」

「職にあぶれた傭兵が、魔物狩りの真似事を始めた。そちらの連中がダンジョンに潜ったりするのに使うから、消費量が戦争時と変わっていない」


 それまでは戦争で需要があったこともあり、国の命令で大量に作られていたポーションが枯渇し始めている、とアルゴはポーションの相場を見て感じていたのだ。


 傭兵や魔物狩りにしても、薬草集めるくらいなら荷運び仕事をしたり、それこそ魔物狩りをしたほうが遥かに実入りがいい。


「今ならまだ、ほとんどの連中は気づいていない。高騰する前にしこたま溜め込んで値上がりしたタイミングで一気に吐けば、それなりの金になるはずだ」

「へー。なら、魔導士学校からパクったら、めっちゃいい小遣いになるスね!」

「犯罪だろうが。憲兵に目をつけられるぞ」

「あ、ダメなんスか?w」

「魔術師学校には植えてあるのか?」

「栽培しよるスね。授業でも使うし、俺も育てれるスよ」

「お前、そういえばポーションも作れたな……でもお前の作るポーション、ゲロマズいからな……」


 以前、吐きそうになるくらい苦いポーションを飲まされて、その後、遊び仲間で罰ゲームに使ったことがあった。


「あのポーション、正規の方法で作ってねースからね。でも安く作れるし、効果も市販のヤツよりかなり高いんすよ? なのに教師に大目玉食らったスけどww」


 笑顔で親指を立てて言うことではない。


 しかしふと、アルゴは思った。


 マズいが、効果があって安い。ーーーそれはアリではないだろうか。


 命と味なら、命を取るヤツのほうが多いだろう。

 作ったポーションを高騰し始める前くらいの値段で売れば、利益を増やせる。


「お前、それ、どのくらいの値段で、どのくらいの量を作れる?」

「え? 大体……」


 このくらいスね、とイーサはスラスラと答えた。


 薬草より当然ポーションのほうが高いし、イーサが作るなら安く売っても儲けは出るだろう。


「そのポーションを、薬草が高騰した瞬間に売り抜ける……」


 アルゴは素早く頭の中で計算した。


 そして返済を引き伸ばす言い訳になるだけのまとまった金と、冒険に出るための最低限の元手を作れる、と結論を出し、即決した。


「よし、なら俺が薬草かき集めて来るから、お前作れ」

「うスww」


 イーサの返事を受けて、アルゴは仕分けをやめてすぐに立ち上がる。


 商売は速度が勝負だ。


「お前、仕分けやっとけ」

「どこ行くんスか?」

「売り子を見つける。それもなるべく美人のな。お前と並べて売らせりゃ、顔効果で話題になる」


 クソマズイが効果があり、しかも美男美女が売っているとなれば、口コミの話題性は十分だ。


「次から次へと、よく思いつくスね……これ、売り抜けたら、また悪名上がるスね」


 イーサがニヤニヤと言うので、アルゴは上着を手にしながら笑みと共に応える。


「有象無象の遠吠えなどどうでもいい。正式に許可取ってやれば文句くらいしか言えん」

「確かに、違いないスww」


 悪名上等、ピンチはチャンス。

 それがアルゴの信条だった。


「誰よりもイカれてる〝狂精神アイゼン〟のアルゴは、借金背負っても健在スね!」

「メンタルの強さだけは、大商人にも負けやしない」

 

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