無敵メンタルの商人は、世界を牛耳る冒険者ギルドを作り始めるようです。
メアリー=ドゥ
「お前の居場所、ねぇから!!www」「誰だ? お前ら」
「「「お前の居場所、ねーからァア!! ギャハハハ!!」」」
商会ギルドからの除名宣告を受けて、ギルド長室から出てきた途端に嘲笑を浴びせられた。
「「どんな気持ち!?ww 今どんな気持ちィイイイ!!??ww」
「ザマァアアアアア!!www 除名ザマァアアア!!www」
「借金いくらになったの?ww ねぇねぇ!www」
ゆっくり広間を見回すと、受付嬢が待合のソファを埋める彼らを見て頬を引きつらせている。
煽り立ててくる(おそらくは)商人らしい連中に目を戻したアルゴは、オールバックにした赤毛に軽く指を通して崩しながら、眉根を寄せた。
「……誰だ? お前たちは」
すると、集まった連中の笑いがピタリと止む。
「あぁ!? 俺らの顔忘れたってのか!?」
「ふざけやがって!!」
「いやいや、イキってるだけだろ?w」
色々言われるが、アルゴは本当に、誰一人として見覚えがなかった。
一応、商会ギルドの偉いさんに会うので、と締めてきたタイを引き抜き、ワイシャツの首元と礼服の前を開いて軽く着崩しながら記憶を辿る。
取引を一度でもしたことがあれば覚えているはずなのだが……昔、少しくらい話したことがあるぐらいの相手だとしたら、申し訳ないがさすがに覚えていない。
ーーーいかんな。商人として、もうちょっと記憶力を磨かなきゃならんか。
それはそれとして、よく知りもしない連中の相手をしている時間が惜しい。
ただ、忘れる、というのはそれだけで失礼な行為であるため、アルゴは腰を折って礼儀を示した。
「いや、忘れているのならすまない。忙しいので失礼させていただく」
特に関心も興味もない相手に、頭を下げるくらいなら安いモノだ。
なんせタダである。
なぜか固まってしまった連中を置いてさっさとギルド本部を出ると、閉めたドアの向こうから罵声が響いてきた。
「なんっだあの野郎!!」
「ふざけやがって!! 借金まみれのゴミクズ野郎が!!」
「イキってスカしたツラしやがって! のたれ死ね!!」
ーーー暇なのか?
こんなところに無駄に集まっている時間があるなら、その時間で金稼いだ方がはるかに有意義だろうに。
そんな風に思いながら、アルゴは自分の店に戻った。
すると、閉店の下げ札をまるっとシカトして、勝手に入り込んでいる男を見つける。
金髪をツンツンに立てた、とてつもない美貌を持つ優男、イーサだ。
スタイルのいい長身に黒ローブを纏い、銀のアクセサリでお洒落に着飾っている。
魔術師学校のエリートで、なぜかアルゴに懐いてくる貴族の息子だった。
「ああ、来ていたのか」
「うっすー。てゆーかアルゴさんこそ、どこ行ってたんスか?」
椅子に座って長い足を組んだまま、彼は手にしていた本をパタリと閉じた。
イーサは年下で、趣味も性格もまるで違うが不思議とウマが合う。
アルゴは近くの椅子を引き寄せて座り、事情を説明した。
「商会ギルドを除名された」
「………………………は? え、どういう意味スか?」
「そのままの意味だ」
片頬に笑みを浮かべながら、ポカンとしたイーサにそう応じる。
アルゴは、この都で急速に成り上がった商人だった。
行商から始まり、今いる店舗を手に入れた後は市場で様々な商品を売り出す傍ら
その結果、かなりの反感を買っていたようだ。
「商会ギルドのVIPから、人伝に高価な荷物の運搬を頼まれてな。大仕事だったが、失敗した」
やっかむ相手のことは気にもしてなかったが、おそらくはそうした連中の罠だったのだろう。
運搬の途中で荷物が雇った護衛ごと行方不明になり、探したところぶっ壊されて中身も馬もいなくなった馬車が見つかったのだ。
調べたところ、護衛に雇った傭兵ギルドの連中がBランクというのは真っ赤な嘘だった。
「賠償金がかなりの額になったからな。これから稼がなきゃならん」
「いくらスか?」
「金貨で百万枚だ」
「ブッ!? 貴族街の一等地に屋敷が買えるじゃないスか!?w」
「そうだな」
「何でそんな冷静なんスかwww」
「借金あっても死なんからな」
「いやいやいや、普通そんだけ借金あったら死ぬスよwww」
まぁアルゴさんだしなぁ、とイーサは笑うが、実際そこまで悲観もしていない。
しかしそこで、彼は疑問を覚えたようだった。
「んなら、その損害って傭兵ギルド持ちじゃねーんスか?」
「連中がそんなモノを払うと思うか? こっちの依頼書の写しを見せたが、連中側にはEランクと書かれていた。商会ギルドも向こうを支持したとなれば、俺に打てる手はない」
力関係が違いすぎる。
むしろ、こっちが契約書を捏造した詐欺師扱いを受ける始末だ。
アルゴはこの件で信用を一気に失い、賠償で財産も失い、今日、商会ギルドも除名されたのである。
「えっと、じゃ、これからどうすんスか? 濡れ衣晴らすんスか?」
「別にどうもしない。ギルドに入らなければ商売出来ない訳でもないからな。そもそも中に信用出来ない連中がいる組織など、こちらから願い下げだ」
食い下がらなかったのは、アルゴが商会ギルドに見切りをつけたからである。
ギルド長が苦い顔をしていたところを見ると、おそらくは彼も今回の件を疑っているが、除名は幹部会の決定らしいので、多数決で負けたのだ。
「そこで俺は、一つ思いついたことがある。そっちの方が面白そうだと思ってな」
「何スか?」
イーサが問い返して来るのに、アルゴは体を前に傾けて膝に両肘を置く。
そしてニヤリと笑みを浮かべると、自分の考えを口にした。
「ーーー俺が、ギルドを作る。冒険者ギルドってヤツをな」
実際アルゴは、商売をしていて組織で上がいることに煩わしさを覚えていた。
そして、腐敗したそれぞれのギルドに搾取され、泣き寝入りする連中が数多くいる状況にも、怒りを覚えていたのだ。
アルゴはスラム街で生まれた。
悪人に搾取されて死んでいく連中も、飢えて食い物を盗む連中も、安い金で犯罪に手を染めて捕まる連中も、山ほど見てきた。
借金があっても死なないが、飯が食えなければ人は死ぬ。
アルゴ自身は生きる金を稼ぎ、莫大な借金があろうが返す自信があるが、大半の連中はそうではないのだ。
魔物狩りも、商品の取引も、その護衛を雇うのも、興行などその他諸々の商売も、安く買い叩かれるべきではない。
それら全て一手に賄え、かつ多くの人々に公正な組織を自分で作れたら。
アルゴは今回の件を機に、そう考えたのである。
その為には、金がいる。
有り余る借金よりももっと膨大な金と、自分の活動の支援者が。
話を聞いたイーサは、軽く何度かまばたきをしながら黙っている。
「どうした?」
「いや……やっぱアルゴさんって企むことの桁が違うスね」
「人聞きの悪い言い方だな」
「褒めてんスよ。死ぬほど借金背負ってんのに、よくそんなこと思いつきますね。……後それ、めちゃくちゃ面白そうスね!!」
「そう思うなら、一緒にやるか?」
アルゴが片眉を上げると、イーサは満面の笑みを浮かべた。
「やるっス!!」
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