第6話 かけ持ちキューピット

 時は昼休み。俺は「相談がある」と二渡に呼び出され本日三度目の体育館裏へ。正直言って、嫌な予感しかしない。


「で、相談って?」

「お、おぅ……あの……その……」


 俺を見ては視線を落とすを繰り返す二渡。普段の強気な彼女とはまるで正反対。

 待つこと数十秒、ようやく決心がついたのか、二渡は両の拳をギュッと握る。


「実は、さ……う、ウチ―――速川のことが好きなんだッ!」

「……あ、うん」

「反応うすッ⁉ もうちょっとあるっしょ、こう「え、マジで⁉」みたいな驚きがッ!」

「いや驚きも何も……そうだろうな~とは思ってたし」

「え、嘘⁉ う、ウチ顔に出てたりした?」

「あ~まぁそんな感じ? たぶん、クラスの皆も気付いてるぞ?」

「周知されてんの⁉」


 二渡は真っ赤になった頬を両手で押さえ、ご自慢のポニーテールを左右に揺らしている。きっと心中で『キャーーーーーー恥ずかしーーーーーーー』と叫んでるのだろう。


「えっと、二渡? 恥ずかしいのはわかるけど、一旦落ち着いてくれない?」

「皆にバレてるってヤバくない? ウチ、そんなに速川好き好きオーラ出してたの? ひょっとして言葉にしてたとか? いやーーーーーーーーーーッ!」

「あの、そろそろ本題に入ってほしんだけど、メシ食う時間がなくなっちゃう」

「清香とか真琴にもばれちゃってるのかな? まさか速川にも…………きゃーーーーーッ!」

「もしもおおおおおおおおおおしッ! 二渡さんはご在宅ですかあああああああああッ?」

「え、急に何? 大丈夫?」


 我に返った二渡に冷ややかな視線を向けられる。理不尽すぎんだろ。


「うん、俺はまったくもって大丈夫だからさ、早く本題に入ってくんない?」

「あ、そかそか…………あのさ、ウチと速川の橋渡し役になってくんない?」


 やっぱそうきたか~。


「一つよろしい?」

「ん?」

「何故に俺?」

「んなの決まってんじゃん。木塚が一番速川と仲良さそうだから」


 当たり前じゃんとでも言いたげな表情をしている二渡。断られるとは微塵も思ってなさそうだ。

 …………心を鬼にするしかないか。


「すまん二渡、俺には無理だ」

「え…………どうして?」


 お前の好きな人から似たような頼みを引き受けたから、とは口が裂けても言えない。


「どうしてって言われても……」

「理由はないけど断る、ってこと?」

「まぁ……有り体にいえば」

「…………ウチら、友達だよね?」

「お、おぅ」

「だよね……んで木塚は友達の頼みを理由なく断るってことだよね?」

「それは…………」


 黙る俺をどう捉えたのか、彼女は自虐的な笑みを浮かべ、たかと思えば力なく俯いてしまった。


「……友達だと思ってたのは、ウチだけだったってことね」

「待て待てどうしてそうな――」

「――うるさいッ!」


 俺の言葉は二渡によって掻き消されてしまう。


「…………らい」

「え?」

「――木塚なんて〝ダイッキライ!〟」


 そう子供じみた捨てゼリフを吐き、彼女は走り去ってしまう。

 嫌いと直接、面と向かって、はっきりと言われてしまった。それは非常に――非常にまずいことだ。


「――待ってくれ二渡ッ!」


 俺が声を張り上げて二渡を呼び止めると、彼女は素直に従ってくれた。

 振り向いた彼女の瞳は、僅かに潤んでいる。

 そんな彼女を安心させるため、俺はぐっとサムズアップし笑ってみせた。


「……俺に任せとけ」

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