2件目 活動報告

「ワンちゃん!!!!」

鎌鼬が娘さんに顔を近づけた瞬間、がっしりと耳をつかまれ鎌鼬はその場に突っ伏してしまった。

「いたた……俺っちはイタチなんっすけどね、いてててっ!!ちょ、一回休憩させ、いてててて……。」

「娘さんには犬もイタチも同じように見えるのでしょうね。」

「な、何でうちの子があなたのことを知っていたんですか?」

「あぁ……この子、審美眼ってものをもって生まれてきてるんっすよ。生まれた時にもう目が開いてたんじゃないっすか?」

女性は細かく瞬きをしながらうなずいた。

鎌鼬はいつの間にか回復し始めた鎌を後ろにやりながら未だに娘さんに耳をつかまれたまま話を続けた。

「そういう子は審美眼っていう人じゃないものまで見えるすごい目を持ってるんすよ。だからこの目を持った子は屋敷の妖怪が生涯見守るって決まりなんす。」

「妖怪の規律にある『第6の子を守る』というものですか。」

「それっす。本当は俺っちと座敷童が屋敷を守ってたんすけど、人間の信仰が弱まって少しずつ力がなくなってきたころ、向こうが日本人形に取り付いてしまったんす。」

わたくしは、妖怪の規律を思い出した。

「確か、それも規律違反ですよね?」

「そうっすよ。妖怪は物に取り付いちゃいけないっす。特に人形なんてもともと人の毛が生えたものに取り付いたら、変な力が溜まるに決まってるんすよ。」

「そのせいで崩れてしまったと。」

「俺っちは止めたんすけど……あの子は俺っちより力の階級が高くて“ぷらいど”ってやつも高くて、あぁなっちゃったんすよね。」

男性は話を聞いておもむろに台所に入っていった。

かと思うと何か大きな皿を持ってきた。

「ん?いい匂いっすね!!」

鎌鼬は匂いにつられてグルンと振り返った。

そこには大きな焼きホッケが盛られていた。

「あと、コーラの代わりになるかわかりませんが……炭酸のジュースです。」

「く、くれるんっすか?!本当に?!」

男性時は女性に視線を向けた。

「え、えぇ、助けていただきましたから。」

「いやいや、俺っちの憂さ晴らしっすから。でもこれはいただくっす!!」

そういうと鎌鼬は皿に口を寄せてがつがつと食べ始めた。

すると、後ろにしていた鎌は見る見るうちに修復し、鋭い鎌になった。

「おぉ、これは見事ですね。」

「ん?あ!!こんなでかい鎌になったの初めてっすよ!!」

鎌鼬は自分の鎌をほれぼれして見つめた。

「ほら、こうやって信じて信仰することで妖怪は生きていけるものなんですよ。」

3人は鎌鼬の嬉しそうな顔を見つめた。

「というわけで、こちら和解証明書です!!サインと捺印をお願いします!!」

「あ、はい……。」

男性が捺印まで済ませたのを確認して、鎌鼬に書類を見せた。

「あ、俺っちも書くんすね。」

「書けます?破かれるのはちょっと。」

「そんなことしないっすよ……んしょ……こうやって鎌だけ変形させれば5本の指に位できるっす。」

鎌鼬の変化にわたくしだけでなく、3人が口をあんぐり開けた。

「ただ、これ、爪が作れないからちょっと面倒なんっすよ。はい、指印までしたっす。」

「ありがとうございます!!鎌鼬さんからは間違いなく頂戴いたしましたから、依頼人の方に報酬をいただきます。」

「あぁ……小銭でしたっけ?」

「えぇ。」

わたくしががま口を開くと、男性も女性も小銭を流しいれた。

すると、娘さんの手がわたくしの視界に写った。

「おや、どうしましたか?」

「これ、ほーしゅー。」

そのかわいらしい手には、5円玉が3つ入っていた。

わたくしはその手を握りなおさせて首を振った。

「これはいただけません。」

「どーして?」

「このお金はご両親からいただいたものでしょう?あなたが自分の力でお金をもらうようになってから、またごひいきに。」

娘さんはにこっと笑って、女性の後ろに隠れた。

「それではわたくしはこれで!!今後ともごひいきに!!」

「今度はお嬢ちゃんと喧嘩したときっすね!ありえないっすけど!!」

ご家族に手を振られるのを見ると視界の端に、鎌鼬さんの尻尾は嬉しそうに揺れていた。


さて今回は……回転寿司に行けます!!

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