2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人⑦

「あらあら、鎌鼬さんったらいけない方だ。」

「いやいや、キトーさんも意地が悪いっすよ!!」

まぁ、目を覆うように言わなかったのはわざとなんですけどね。

人間はおろかですから露骨に庇ってもらわなければ、存在を認めてもやれない……器もオツムも小さい生き物ですから。

「あ~……見苦しいもの見せてごめんなさいっす!!怖かったすよね?!だ、大丈夫っす、もう何もできないっすから!!ほら、ね?見て!ね?」

鎌鼬は必死に弁解をしているし、人間もうなずいてますからとりあえずはうまく落ちも付きましたね。

「では!!お二方は和解したってことでよろしいですね!!」

「は?」

「まさか、助けてくれた妖怪にまだ怒っているとか言いませんよね?」

「そ、それは……。」

男性も女性もうなずきつつも何か納得がいかないような顔をした。


「ま、まぁ仕方ないっすよ!!」

「仕方ないといっても、あなたは約束のためにここから去ることもできないでしょうに。」

「そうなんすけどね……。」

鎌鼬は消沈してその場に座り込んだ。

すると男性がこちらに近づいてきた。

「あの……。」

「ん?なんすか?」

「さっきからその約束ってのは一体……?」

「あぁ、俺っちここの用心棒なんす。もともとそこらへんでいたずらして回ってたんすけど、この家に来た時にご飯をくれた女の子がいたんすよ。その時に『毎日食うに困らないから用心棒としてここにいてくれないか』って頼まれたんっす。これがまたいい条件だったんすよ。俺っちの好物はくれるし、好きなだけ庭を駆け回ってもいいし。」

「は、はぁ。」

「ただ、ここってものすごい余計なのばっかり集まるんすよ。だから用心棒もちゃんとしてたんっすよ。時期でいうと、ちょうど旦那さんのおばさんのひいおばあさんのころからお世話になってるんす。」

鎌鼬の言葉に、男性だけでなく女性もポカンと目を見開いた。

「そ、そんなこと何も聞いたこともないんですが。」

「まぁ、俺っち『神様』ってことにされてたんで仕方ないっすね。」

「……あ!!神棚!!叔母が毎日缶詰を備えていたのって……。」

「それっすそれっす!!あと……なんだっけ、黒くてピリピリする飲み物。」

男性が女性のほうを見ると女性もピンときたらしく、口を開いた。

「コーラですか?!」

「あ、そんな名前のやつっす!!俺っち甘いお酒が好きだったんすけど、今はその方が美味しくて大好きなんっす!」

「どうやら叔母様の時までは毎日祈りをささげていたみたいですね。」

わたくしが口を挟むと、男性も女性も口を閉ざした。

「妖怪は、信仰されなくなれば力を失っていきます。特に鎌鼬さんは妖怪の中でも力が弱いものですから。」

「俺っち真面目に守ってたのに面目つぶさないでほしいっす!!」

「あぁ、つい口から出ちゃいまして。」

鎌鼬がわたくしをにらみつけると、女性の腕に抱かれていた娘さんが目を開けた。

「気が付いた?!」

「大丈夫か?どこか痛くないか?」

「ン……うん。……あ!!」

娘さんはご両親の顔を見てからこちらに目を向けてキャッキャと歓喜の声を上げた。

その視線の先には優しい目をした鎌鼬がたっていた。

「お嬢ちゃま、お目覚めっすか?」

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