2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人⑥

「そのまま……そのまま俺っちたちの後ろにきておくっす。」

2人がわたくしのほうを見たものだから、仕方なくうなずくと2人は恐る恐る我々の後ろに隠れた。

「何が起きてるんですか?」

「しぃっ!!今は口を閉じて両手で抑えるっす。」

「そうですね、こちらに入られても災いですからね。」

鎌鼬が2人をかばっているのを確認してから、わたくしは娘さんの額に手を当てた。

「さぁ、ここはあなたの言うべき場所ではありませんよ。出でなさい。」

そのまま上に引き上げると、娘さんの口から真っ黒い煙が引っ張り出た。

煙に包まれた正体に、2人は悲鳴を上げ、鎌鼬は唸り威嚇をした。


「こんにちは、座敷童……いや、今やただの”崩”でしょうか?」

「黙れ゛ぇえええ!!」

妖怪崩は首をかしげてからこちらに飛びつこうとした。

「【鎖縛】。」

わたくしがこぶしを握ると、その手からは鎖が伸び妖怪崩を捕まえてぎりぎりと締め上げる。

「ぎ、ぎぃぃ……あ゛ぁぁぁ!!!!わ゛し゛を゛封じた゛女゛をよ゛こせ゛ぇぇえええ!!!!」

「無駄ですよ、暴れれば暴れるほど絡まるだけですから。それに、崩風情相手に解けるわけがないでしょう。」

妖怪崩は奇声を上げながら足掻いている。

無駄だといってもすでに思考もイカれてますか……残念な限りです。

その隙に鎌鼬が妖怪崩の足元に横たわる娘さんを引き上げた。

「さ、ちゃんと抱きしめてあげるっす。」

「あ、ありがとうございます。」

「な、何なんですか、あれ!!」

「“妖怪崩”ですよ。本来、妖怪は人の信仰があってこそ姿を保てるんです。要はすべての人間に忘れられたら、消滅してしまう儚い存在なんですよ。」

「でも、あれは未練と欲で塗り固まった、文字通り化け物っすよ。忌々しい……実に忌々しい姿っす。」

鎌鼬は目を細めて息を吸った。

「きとーさん、これ、俺っちがもらっていいっすか?」

「はい?」

「魂だけ残せば報酬になるんすよね?特に、これだけ珍しい妖怪なら崩れても妖怪でしょ?」

わたくしが鎌鼬の方を見ると、その顔はすでに怒りにゆがみ消えていたはずの牙と鎌がよみがえった。

「おや、とんだ無茶を。」

「これくらい……俺っちの“ぷらいど”に比べたら爪の先っすよ。」

「そうですか、では鎖はほどいても?」

「勘弁してほしいっす。」

鎌鼬はへらっと笑ってから妖怪崩に一歩近づいた。

「あんた、よくも……よくも俺っちの人間たちを傷つけたっすね……腐りきった根性っす。」

そして妖怪崩が奇声を上げて鎌鼬に顔を近づけた瞬間、肉の避ける音とともに鎌の音が空を切った。

「あんたは道を外れたんす、一昨日きやがれっす。」

妖怪崩は鎌鼬の足元に肉塊となり、煙に消えていった。

そして座敷童の魂だったであろう鞠が転がっていた。


「さすがですね!!」

「はぁ、もう無理っす……完全に折れて使い物にならないっすよ。」

鎌鼬がこちらに振り返ると、わたくし越しに見えた3人に顔を引くつらせた。

「あ……目を閉じてもらうの忘れてたっすね。」

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