2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人⑤
「もう!!なんなんっすか!!俺っち、ちゃんと本当のこと言ったっすよ!!」
「えぇえぇ、そうでしょうとも。わかっていますよ。でもここで事を荒立てるとあなたが劣勢になってしまいます。わたくしはどちらにもおなじだけの態度をとるので中立なんですよ。」
鎌鼬は不服そうに頬を膨らませたが、すぐに息をついた。
「わかったっす。でも、俺っちの汚名は俺っちが返上したいんすよ。」
「しかしですね~。」
「俺っちにだって“ぷらいど”ってのがあるんすよ!」
わたくしが鎌鼬さんをなだめ損ねていると、今度は男性がこちらにずいっと近づいた。
あぁ、どうしてこうも血の気が多いのか……。今回の件は冷静な奴はいないのか。
だるすぎる……一分一秒でも早く帰りたい。
「では、喧嘩にならない程度に。」
「仲介人さん?!」
「まぁまぁ、心配しなくても鎌鼬さんのことです。必要であればきちんと抑えますから。」
女性は不安げにわたくしの顔を見上げた。
鎌鼬は、わたくしの顔を見て軽くうなずいた。
「旦那さん、腕まくりをして俺っちの前に突き出すっす。」
「は?」
「早くするっす。俺っちはちょっと短気なんすよ?」
男性は、顔をしかめつつ恐る恐る腕を突き出した。
「あ、貴方……。」
「大丈夫だ……腕の一本や二本。」
「ほぉ~、肝が据わってるんすね。」
「一思いにやってくれ!!」
「じゃ、遠慮なく!!」
鎌鼬の鎌が男性の腕をとらえて、男性は腕を伸ばしたまま床に突っ伏した。
その瞬間女性の悲鳴が屋敷中にこだまする。
「きゃぁああああ!!!!」
「あらあら、やはりそうでしたか。奥様、旦那様をよく見てください。」
女性が顔を上げると、男性の腕を見て口をあんぐりと開けた。
男性も顔を上げて、「へ?!」と素っ頓狂な声を上げた。
「な、何で切れてないんだ?!」
「切れるわけないじゃないっすか。こんな鎌ぼろぼろなんすよ?」
鎌鼬の鎌は刃こぼれがひどく、男性の腕に振り下ろしたせいでその刃もほとんど砕け散ってしまった。
「それに、俺っちここに住む人間は痛めつけちゃいけないんす。約束っすから。」
「約束……?」
男性も女性も鎌鼬に視線を向けたその時、ずっとぼーっとしていたはずの娘さんがゆっくりとこちらに視線を向けた。すると、鎌鼬さんは眉間にしわを寄せて娘さんを見つめた。
「おや……鎌鼬さん、もしかしてのまさかのそれですか?」
「やっぱりわかるんすね……そうっすよ。」
「なるほど……面倒ごとは嫌いなんですけどね。」
「俺っちじゃ手を出せなかったんっすよ。あんたしかできないっす。」
鎌鼬は視線をそらさないまま鎌に力を入れた。
「あの……うちの子に何か?」
「近づいちゃダメっす!!」
「っ?!」
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