2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人④

「鬼頭……きと……あぁ!!きとーさんじゃないっすか!!」

「こんにちは。調子はいかがですか?」

「まぁまぁっすかね……あれ?でもやけに老けてないっすね。もう会った時から70年くらいは経ってるっすよね?」

「えぇ、その子孫ですから。あの……実はわたくし足元がはしごでして。疲れてきたので一度降りてきてくださいませんか?」

わたくしの説得に、鎌鼬はすぐにうなずいてわたくしが下りたのを確認してから、のそのそと梯子に後ろ足をかけた。

「は?!」

「どう見てもイタチじゃない……ば、化け物!!」

鎌鼬は反応を見て少し悲しそうにニコッと笑った。

「おや、牙は抜いたんですか?」

「抜けたんすよ。残ってるのは前歯だけっす。」

わたくしたちの会話に2人はぽかんとこちらを見入っていた。

「あぁ、紹介します。こちらは鎌鼬さん、イタチの姿ですが動物の姿より少し体が大きく、前足に鎌があるのが特徴です。」

「ちわっす。」

鎌鼬が軽く頭を下げると、女性も男性も叫びあげた。

「あ、あなたが私たちの服を切り裂いたの?!」

「う、腕まで切るなんて……。」

「お2人とも、落ち着いてくださいな。まずは状況を聞いてみないと何とも言えませんよ。」

「何を確認するんですか!!どう考えてもこの化け物のせいじゃない!!」

女性は足元にあった鋏を振り上げた。

その時、鎌鼬の前足が鋏に伸びて、鋏だけを弾き飛ばした。


「ひぃっ?!」

「鎌鼬さん、腹が立つのはよくわかります、正直わたくしでさえ、うざすぎて放っておきたいところはやまやまですが、今は抑えてください。」

鎌鼬をなだめると、ため息を一回吐いてから2人のほうを向き直った。

「違うんすよ、なんか、いろいろと。」

「ちがう?いったい何があったんでしょうか?」

「はぁ。まず、奥さん!!その腕の傷は俺っちじゃないっす。」

「は……?」

「確かに、服を破いたのは俺っちっす……ネズミとか虫を狩ってたらうっかり……本当にごめんなさいっす!!それに俺っちの鎌は、人を切れないっすよ!!」

鎌鼬が頭を下げると、次は男性が声を上げた。


「そんなことを言って、本当は俺たちの生活を脅かすつもりなんだろう!!その鎌だって、大きくてあっという間に傷つけられそうじゃないか!!」

この方は優勢になるまでしゃべらないつもりだったんでしょうね。いかにも人間らしいことで。

すると、鎌鼬は男性にずいっと近づいた。

「な、何のつもりだ!!」

「俺っち、嘘は言わないっす。」

「そんなの出まかせだろう!!」

わたくしは、すぐに男性と鎌鼬を引きはがした。

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