2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人③

次の日、窓から日の出を感じて間もなく家の黒電話が悲鳴を上げた。

「だっる……。」

受話器を取ると、甲高い女性の怒鳴り声が頭の中にまで響いた。

「あなた!何てもの渡してくれたの!!」

「はて……カメラがどうかしましたか?」

「今朝、腕が引っかかれてたのですよ!!血は出ていないかったけど、これって何かの仕業でしょう!!」

「あぁ……すぐ伺うので歯磨きの時間だけいただけませんか?」

寝起きの悪気分で返事をすると、女性は我に帰ったのか声がおとなしくなった。

「え、えぇ。気を付けてお越しください。」

「それはどうも。では後程。」

電話を切ってからコーヒーをしっかり嗜んでから、屋敷の前に文字通り瞬間移動した。


すると、鍵は開けられていて、玄関からすでに生臭い匂いが漂っていた。

部屋の奥からは、女性が男性に抱えられて顔を出した。

この男性が旦那さんといったところか……いかつい顔だな。

女性は腕を抑えて顔を痛みで歪ませていた。

「鬼頭さん……。」

「怪我の具合を確認しても?」

「えぇ、お願いします。」

腕をまくった女性の腕には、深い傷跡ができていた。

見たところ……できたばかりには見えるものの、人間のできる技ではないのは確かだ。

「妻は大丈夫なんでしょうか?」

「そうですね、今のところは何とも。お子様は?」

「それが……部屋から出ないと聞かないんです。」

「ほぉ。」

わたくしは、彼らに移動を促して昨日入った部屋に案内を頼んだ。

部屋に入ると、そこにはぼーっと外を見る娘さんとすでに降ろされたであろう箱が足元に置かれていた。


「内容を確認しますが、よかったらご覧になってください。」

「見ないとだめですか?」

「あ~、そうですね。こういうスリルってめったに経験ありませんしね。」

わたくしの反応に、女性も男性も不服そうに眉間にしわを寄せた。

仕方なくわたくしだけで先に映像を確認する。

「あぁ、特には……危険性のある妖は映っていませんね。」

「妖……ですか?」

「えぇ、映っているものはいたって安全性の高い子ですよ。」

「いるんですか?!」

男性が声を荒げて、女性は小さく悲鳴を漏らした。

わざとらしい……どうしてこうも人は大げさなんだろう。

妖なんてどこにでもごろごろいるというのに。

わたくしは、カメラを差し出した。

2人は恐る恐るのぞき込み目を見開いた。

「これは……イタチですか?」

「ね?怖くないでしょう?」

「え、えぇ。確かにこの地域は野生の動物もよくいますし。」

「そうでしょうとも。ただ……問題はこのカメラに写っているということですよね。」

わたくしがボソッとつぶやくと、2人ともぞっと顔を見合わせた。

カメラを持つ手が緩んで、わたくしは咄嗟にカメラを受け取った。

「このにおいを鑑みると……どうやらこの上……あぁ。屋根裏に登れるところはありますか?」

声をかけると、男性はうなずき外から梯子を持ってきた。

「その色が違うところが開けられます。」

「あぁ、なるほど。ここですか……。」

わたくしが梯子を上り、懐中電灯を照らし屋根裏を見渡すと奥のほうで丸まって毛を立てる獣が見えた。

「こんにちは、鎌鼬さん。鬼頭と申します。」

鎌鼬はわたくしの自己紹介に顔を上げた。


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