2件目 鎌鼬(かまいたち)に服を破かれた人②

わたくしが襖に手をかけると、僅かに建付けの違和感はあったものの、簡単に開き部屋には獣の匂いが残っていた。そして、女性の言う通り洗濯物が畳む前にびりびりに破けていた。

「これは……ひどい有様ですね。」

「娘にまで被害が出たらと思うと家にいるのも怖くて……。」

「確かに恐ろしいですね。では念のためにこの箱をお渡ししておきますね。」

わたくしが鞄から桐の箱を取り出すと、女性は受け取り眉間にしわを寄せた。

「これ……隠しカメラですか?」

「えぇ。」

「この部屋……着替え部屋なんですけど。」

「あぁ、説明を忘れていましたね。こちら、人間は映らないんです。ほら、このように、見渡しても何も映りません。」

カメラを覗き込んだ女性は、納得したようにうなずいてから体をびくつかせた。

「ちょっと……なんであなたは映るのよ。」

「なぜと言われても……わたくしは人間純度100%ではありませんし……。」

「は?!」

「でも8割方は人間が配合されてるはずなんですよ!!だから安心してくださいね!」

「な……。」

「あ。これで正体がわかれば、後はお相手との和解だけですから。そうですね~、あぁ、そこの人形の横にでも置いておきましょう。」

わたくしは足台を借りて、箪笥の上の人形の横に箱を置いた。

ちらりと人形に目をやり微笑んでから台を降りると、女性が怪訝そうにわたくしの顔を覗き込んだ。

「あの、人形に何か?」

「いえいえ、こういう昔ながらの日本人形は珍しいのでつい見入ってしまいました。ぶしつけにすみません。」

「いえ……。」

女性は気まずそうに眼をそらし、娘さんは女性とわたくしを交互に見ていた。

「では、3日後に再度伺います。途中で何かありましたらすぐにご連絡くださいね。あ、この長いほうの名刺はご主人に。」

「……えぇ、わかりました。」

わたくしは屋敷を出てそそくさと事務所に戻った。

一体どうしたらあんなに臭い部屋で洗濯物が干せるものだ。

え?獣の匂いじゃないですよ、分からなかったんですか?

あぁ、そうでした……読み手の方に箱の匂いはわかりませんでしたね。

そんなに嫌そうな顔しなくてもすぐにわかりますよ。


……まぁ、それまで彼らが生きていられればですけど。

生きていたとしたら……明日には連絡が来るでしょうから、それまでは牛丼のテイクアウトでもして英気を養っておきましょう。

今のうちに塩風呂の準備でもしておかなくては。

はい?だって食べた後だと面倒くさいじゃないですか、準備。

とにかくここからはオフレコなのでね!!おやすみなさいです!!

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