1件目 活動報告

依頼人を送り届けてからわたくしはやっと息をついた。

いや~、時間が流れるのは早いものですね。流石にあれから昨日まで温泉巡りに勤しんでいたなんて口裂けても言えませんからね~。

さて、もう一方にも署名捺印をいただかなくては。

わたくしが祠に体を向けると、狐さんがこちらに仁王立ちをして立っていた。

「お出迎えありがとうございます!!こちら和解証明書のサインお願いいたします。」

「拇印だけでいいな。」

「う~ん、いいですよ。」

狐さんは眉間にしわを寄せながら親指で判を押した。

「完璧です!!もしかして押し慣れてます?」

「貴様、わざとだろう。」

「何がです?」

「あの青年がわしに頭を下げに行くように仕向けたのだろう。」

「まっさかぁ!!わたくしは生粋の仲介人ですよ!!2方の接触は初日の顔合わせのみと決めていますから!!」

「……青年のほうがそれを破っただけか。」

「そういうことになりますね。別にいいんですけどね!解決すればどうでも!!」


わたくしの言葉に狐さんは呆れたように溜息を吐いた。

「狐さんこそ、意地が悪い。あれはあなたのまじないではないでしょうに。」

「何のことだか。俺は目障りなくずれを怒りに任せて引きちぎっただけだ。」

「そうですか!!何はともあれ、仲直りおめでとうございます!!それで……成功報酬なんですが。」

「なんだ、こっちからも取るのか。」

「“仲介”ですから。」

狐さんは祠にある賽銭箱を指さした。

わたくしが中を覗き込むとそこには……。

「に、28円……。」

「わしに賽銭を投げるものなどここ百年いた試しはない。投げてもあの青年だけだ。」

「そ、そんなぁ……。」

「青年から全部かっさらったんだろう。帳尻合わせだ。」

なんてむごい……こんな……こんな……。

わたくしは溜息をついてがま口に賽銭箱をひっくり返した。

「では、今後ともごひいきに。」

「二度とごめんだ。」


わたくしが祠を離れ、木の枝を潜り抜け振り返ると、そこには木の枝ではなく……しゃがまないと通れないほどの鳥居が建っていた。


さて、今日は……人間の食事は予算オーバーですね……グスン

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