1件目 妖狐(ようこ)の怒りを買った人⑦

「まぁまぁ、ご自身の顔を見ればわかりますよ。」

「は?……はぁ?!?!」

俺が鏡を覗き込むとそこには……指でなぞったような赤いアイラインに輪郭から伸びた赤い線が入り、まるで狐面のような化粧が施されていた。

「な、なんだこれ!!とれない!!」

「お気に入り認定おめでとうございます!!めでたいめでたい!!」

「めでたいことあるか!!こんな……学校どうするんですか!!」

「あ、大丈夫ですよ。これ、人間同士では見えませんから、ほら、これ百均の鏡です。」

仲介人からプラスチック縁の鏡を差し出され飛びつくように覗くと、そこには、今まで以上に元気そうな自分の姿が映っていた。


「ね?心配には及ばないでしょう?」

「ま、まぁ、そうですね。」

「あ、でもこれからはここの管理、あなたがすることが決定したんで、さぼっちゃだめですよ?」

「は?!なんで?!」

「さぁ、でもここのお狐様のご利益、案外悪くありませんよ。」

「ご、ご利益?」

「“厄除開運”と“家内安全”です。あなたにピッタリじゃないですか~。」

「ど、どこが?!?!」

俺が詰め寄ると、仲介人はぽかんと俺を見た。

「はい?まさか、あなた……頭の中までおめでたいんですか?」

「は?!だったらこういうこと頼みにもいかないですよ!」

「いやいや、違います違います。え、本当に気が付かないんですか?」

「何が!」

「あの呪い、狐さんに解いてもらったんですよね?」

なんで同じことを聞かれるのか見当もつかないまま俺がうなずくと、仲介人は顔を近づけるようにとちょいちょいと手招きをした。

「解いてもらった時、狐さんはその呪いをどうしましたか?」

「どうって……手で握りつぶしてましたけど。」

「あぁ、やっぱり。じゃ、やっぱりわたくしの解釈は正しかったですね。」

「は?」

「呪いを付与した本人なら、呪いはわざわざつぶしませんよ。もともと自分の妖力ですから、やってもモグモグゴクンが関の山です。体の外で呪いをつぶすのは……ねぇ。」

「何が言いたいんですか?」

俺が首をかしげると、仲介人はにこと微笑んだ。

「ま、細かいことは考えないほうがいいですね。」

「は?」

「では、今後ともごひいきに!!」

仲介人は手を振った直後、俺は光に包まれて目を開けたときには自宅の部屋に座っていた。


咄嗟に腕まくりをすると、腕はきれいさっぱり治っていて口の中には……甘い飴玉の香りが残っていた。

「夢じゃなかったんだ……。」

俺は部屋から出てキッチンの冷蔵庫を開けた。

そこには、新しい油揚げのパックとそこにテープで『おいしい稲荷ずしのつくり方』と手書きのレシピが貼り付けられていた。

そして裏側には『今度うまい稲荷ずしの店に連れて行ってやる』と豪快な字のメモが貼られていた。

家には相変わらず俺一人だったけど、そこにはむず痒いほどの温かさを感じた。


「……今度は人数分作るか。」

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