1件目 妖狐(ようこ)の怒りを買った人⑥

「しかし……貴様の作ったものだというのは事実のようだ。」

「はい……。」

「わかった、そなたを呪いから解放してやろう。」

「……へ?」

狐は俺の前に来ると、俺の目の前に手のひらを広げた。

その手のひらはゆっくりと動いて、紫色の何かを引き抜いていく。

紫色のものは狐の手のひらに吸い込まれて、狐がプチっという音を立てて握りつぶしてしまった。

「さぁ、これでもう呪いはなくなった。」

「あ、ありがとうございます!本当、すみませんでした。」

「やめろ、わしはできの悪い人間は嫌いだ。」

こうして狐の姿は見えなくなってしまった。

そして俺の手のひらには赤い飴玉が握られていた。

「お、お駄賃……とか?」

俺はその甘い匂いにつられて飴玉を口に含んだ。


「お待たせいたしました!!!!」

「ッ?!」

直後、背後から聞き覚えのある声がして思わず飴玉を飲み込んだ。

「おや、驚かせてしまってすみません。先ほどやっと書類一式が間に合いましたのでご自宅に伺ったのですがお留守でした。こちらにはお越しにならないご予定にしていたはずでしたが……何か心境の変化ですか?」

「あぁ、その……。」

俺が目配せをすると、仲介人は目を見開いた。

「これはこれは……素晴らしい。」

「腕も動くようになっ……」

「では和解が成立したのですね!!おめでとうございます!!あ、こちら和解証明書です、サインお願いします。」

早口、食い気味に証明書を突き付けた依頼人はポケットから朱肉を取り出した。

「さ、ここに拇印を!!」

「わかりました、わかりましたから顔に近づけないでください!」

俺がサインと拇印を済ませると、依頼人は古びた斜め掛け鞄から革製のがま口を取り出した。

「では成功報酬をここに。」

「あの、マジで大金はないんで。」

「ありますよ、あなたのお財布の中の小銭が。」

「……は?小銭まで取るんですか?!」

「ち~が~い~ま~す~よ~!!バカなんですかぁ?」

「な……馬鹿って……。」

「こういうのは小銭だけもらうに決まってるじゃないですか!!お賽銭って知ってます?」

「し、知ってますよ!!」

「そういうことです。さぁ、財布を開いて、小銭全額をここに流しいれてください。」

仲介人は俺の目の前にがま口を突き出した。

俺はしぶしぶ財布を取り出して、小銭をがま口に突っ込んだ。

「バリバリ財布なんですね。今時だっさ。」

「余計なお世話ですよ!!」


俺が仲介人をにらみつけると、仲介人はおもむろに俺の足元に視線を移した。

そこには先ほど口に入れた飴玉の包み紙が落ちていて、俺は手を伸ばした。

「きれいな祠に不自然なごみですね。」

「あぁ、さっき狐にもらったんです。」

「ブフッ!!」

すると仲介人は俺の顔に視線をやってから顔全体で噴き出した。


「っ?!」

「し、失礼しました。先ほどからあなたの纏う香りに嫌な予感がしたのですが、食べてしまったんですね、それ。」

俺がうなずくと、仲介人はけらけらと笑い出した。

「な、なんですか!!」

「いえいえ、あなたはとことん……罪な方だ。」

「罪……?」

仲介人は俺の怪訝な顔に含み笑いをして鞄から赤い丸縁の鏡を差し出した。

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