1件目 妖狐(ようこ)の怒りを買った人③

〈依頼人視線〉

仲介人と目を合わせると俺は力が抜けたかと思うと、意識が吸い込まれた。

目を開けて周囲を見渡すと無機質な薄暗い視界が広がった。

「なんだここ……。」

恐る恐る立ち上がると、ガンっという音とともに頭に激痛が走った。

頭上に手を伸ばすと、すぐそこが天井になっているのか全く立ち上がれない状態になっていた。

しかし、腕の痛みは消え去った。

「ここから出ればいいのか?」

俺は地面を這うように腕に力を入れた。

直後、俺の体は地面にたたきつけられた。

「は……?腕の力が……ッ?!」

腕を見ると……俺の両腕はぼろぼろに砕けていた。

「うわぁあああああ!!!!」

その腕は見る見るうちに石に代わると、一辺が肩に触れた。

すると、肩が腕と同じ色に変色を始めた。

「ひぃ?!……う、動けない。」

「おやおや、これはこれは恐ろしい光景ですねぇ。」

その時、どこからか仲介人の声が響いてくる。

「なんだここ!!なんだよこれ!!」

「これは、妖狐さんのお気持ちを具現化したものですよ。」

「気持ち……?」

すると、薄暗い世界は消えて、視界は事務所に戻っていた。

「えぇ、あなたはお賽銭を盗むばかりではなく、妖狐様を模した石像にぶつかり砕いてしまった。それを修繕する努力もせずに、逃げ出したのです。妖狐様の力は強力なものです、強い呪いをかけられたのはご慈悲ともいえるでしょうね~。」

「こんなもののどこが慈悲なんだよ!!」

「わかりませんか?本来ならあの場で息の根を止められてもおかしくなかったというわけです。かろうじて生かしてくれているのは……さては、妖狐様、あなたを叱責して反省を促しているのではないでしょうか。」

「……俺が反省したらこれが終わるってのか?」

「さぁ。」

「は?」

「または、あなたの苦しむ姿を見て怒りを解消しているのかもしれませんから、本当のところはわかりはしませんよ。」

「なっ!!」

仲介人は、PCの前に腰を掛けた。

「では続きはわたくしが手配いたしますので、今日は帰っていただいて結構ですよ。」

仲介人がほほ笑むと、俺の体に強い風が当たって、事務所の外に吹き飛ばされてしまった。


目の前には自宅が見えて、俺は慌てて家に飛び込んで部屋の扉を閉めた。

「か、帰ってきた……。なんだあれ……。」

服に違和感を覚えてポケットを漁ると、古い眼鏡とメモが入っていた。

メモには[面倒ごと防止にこの眼鏡をかけて外に出るようにしてくださいね。面倒なので。]と記されていた。

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