1件目 妖狐(ようこ)の怒りを買った人②

「……どのくらいの相場なんですか?俺、これのせいでバイトもやめたんで……。」

「え~、ツケとか言うんですか?わたくし、すぐ払い主義なんでダメです。」

「……かき集めます。」

「あ、いいですよ。安くしときますんで。」

依頼人は切なそうに溜息を吐いた。


そこから依頼人と予定を合わせたわたくしは、例の祠に足を運んでいます。

賽銭箱の上では、妖狐様が胡坐をかいてわたくしたちを睨みつけていました。

「おやおや、アポを取って正解でしたね。」

「来たか。」

「仲介を務めます、鬼頭と申します。名刺は先日置いておいたんで知っていますよね。」

妖狐はわたくしの後ろで震える依頼人を見るなり声を荒げた。

「なぜこいつがここにいる!!愚か者めが!!」

依頼人は姿が見えないので無反応……うざいんですよね……仕方ないですけど。

「仲介初日は顔合わせをする決まりなので。お怒りを鎮めてくださいな、あぁ面倒くさい。」

「……仲介は受け入れるつもりはない。」

「おやおや、相当のお怒りのようですね。わかりました。後日打開案の提示をしにもう一度顔を出します。次はわたくしだけで伺いますのでご安心ください。」

妖狐はいぶかしげに私の顔を除いてそっぽを向いた。

「ではまた後日。」


こうしてわたくしと依頼人は祠を後にした。

事務所に戻ってくると、わたくしはお茶を準備した。

「これは長丁場になりそうですね。」

「……成功するんでしょうね……。」

「さぁ、善処はしてみますよ。」

わたくしが答えると、依頼人はいら立ちを露わにした。

「ていうか、ちょっとした出来心だったのに……。」

「出来心ですか。」

「そもそもそんなに怒る化け物がいるんならあんなぼろいのはおかしいでしょ。」

「そんなことありませんよ。単に面倒を見る人がいなかっただけですから。」

依頼人は顔をしかめた。

「それより、お相手にあまりに失礼な物言いは心証を悪くするのでやめてくださいね。」

「はぁ?仲介してくれるんじゃないんですか?」

「もちろん仕事はしますが、あなたのイメージづくりをするのも大切なんですよ。」

「いやですよ。あんないたずらくらい。」

わたくしはお茶を机に置いた後、依頼人に向き直った。

「反省はされないということですか。」

「反省?なんで俺が。」

「あなた……愚かですね。」

「は?」

「あなたには、少しお相手のお気持ちを察していただきましょう。」

わたくしは依頼人と視線を合わせた。

すると、依頼人は気を失ってその場に倒れこんだ。

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