1件目 妖狐(ようこ)の怒りを買った人
今日もわたくしの事務所は暇を持て余しています。
まぁ、便りがないのは良い便りとも言いますし、暇な分の昼寝も捗りますから最高ですけどね。
すると、わたくしのPCに一つのご依頼が舞い込んできました。
しかたありませんね。
わたくしは、いつものように依頼人の目の前に事務所も移動させます。
え?どうやるって?
わざわざ説明するんですか?え~、いやですよ、面倒くさい。
見てればそのうち分かるようになるんじゃありませんか?
知らないですけど。
さて、そうこうしているうちに、依頼人が事務所の扉を開けました。
どうやら若い青年という感じですね。顎が青いので高校生でしょうか。
「いらっしゃいませ。どういったご依頼で?」
「あ、あの……いきなり目の前にこの建物が現れたので……入ったんですけど。」
「おやおや、もしかしてご依頼されていませんか?ほら、ホームページのお問い合わせいただいた。」
わたくしがスマホでホームページを表示すると、依頼人はピンときた顔をした。
「あ、はい。俺です。」
「あぁ、よかった!!ご依頼人を間違えたら失礼ですから。……それに力の無駄遣いとかくそだるいですしね。」
「え……。」
「いえいえ、何でもありません。あ、これ名刺です。」
「名刺……え、長……。」
これでもうまいこと折りたたんだんですけど、依頼人の持ち方が悪いせいで元の長さに戻ってしまった。
それ、わたくし片づけないのでどうでもいいですけど。
「自己紹介が書かれているので暇つぶしに読んどいてください。私、ぬらりひょんの遠縁の親戚なんです。」
「は、はぁ。」
「ぬらりひょんの息子の従兄弟の孫の兄の叔父の娘の……あれ、どこまで言いましたっけ。」
「もう……大丈夫です。」
「それで?ご依頼とは?」
依頼人は、腕まくりをした。
その腕には噛み跡とそれを根にした紫色のやけどの跡のようなものが浮き出ていた。
「おやおや。あっはは。」
依頼人はわたくしの顔を睨みつけた。
「最初は噛み跡だけだったんですけど、今では毎日腕がうずいて、寝不足も続いているんです。」
「あぁ、それはそれは。ふっ……ふふふ。あぁ、すみません、ここまで放っておく方は珍しいので、ちょっとイカれた人かと思いまして。」
「は?」
「あぁ、失礼。それで、何かかきっかけがありましたか?」
依頼人は、びくっと肩を震わせてわたくしから目をそらした。
「見たところ、犬か……狐か……。」
「ち、違う。あれはちょっといたずらで。」
「いたずら?」
わたくしが聞き返すと、依頼人は気まずそうに話を始めた。
「一か月くらい前、俺は友達と古い祠を見つけて……魔がさしたというか……はい、ちょっと賽銭箱を盗もうとしたんです。そしたら、目の前で石造の首が落ちて……バックリ割れたんです。それで怖くなって逃げてきたんですけど……。」
「そりゃさぞお怒りでしょうね。どんなに古い祠と言えども、主はいますからね。ちなみにどこの祠ですか?」
わたくしの問いに、依頼人は場所を伝えてきた。
ため息が出ましたよ、つい。
「そこは、妖狐さんがいらっしゃる祠ですね。」
「ヨウコ?」
「狐の妖怪なのですが、これまた気が荒い方でしてね。それに執念深いので、あなたが死ぬまで許してくれないでしょうね。だいぶ呪いも膨らんでいるようですし。ドンマイですね。」
「だから頼みに来たんですよ!!」
依頼人は焦燥感で机を叩いた。
あぁ、よかった。家庭科室と同じ材料で作ったから壊れないで済みそうですね。
「わかりました。では仲介をさせていただきます。成功報酬しか頂かない主義なので心配しないでくださいね。」
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