帰り道

 その後、何度か掛け直してみるも空と繋がることはなかった。

 店主曰く、距離が遠すぎたり、魔力波による乱れの可能性もあるため日を改めた方が良いとのこと。

 やはり地球との通信は難しかったか。

 “虫の知らせ”を深刻に捉えているフィオの表情は些か暗い。


「そんなに気にするなって。俺の勘は外れることもよくあるからな」


 殊更明るく振る舞う。

 フィオを元気付けるのもあるが、俺自身当たって欲しくないからだ。


「それなら良いのだけど……」

「前向きに考えようぜ。連絡を取る方法もないことだし」

「大見得を切った身としては恥ずかしいよ」


 そんな立ち振る舞いには見えなかったが自信があったのだろう。


「東の国との通信なら問題なくできるとおもってたのだけど……。はあ、やはりやってみないことにはわからないね」


 心臓がドキッと跳ねる。

 だって実際は東どころか違う世界だし。

 フィオの想定通りに進むはずがないのだ。

 120パーセント俺が悪かった。


「そ、それより何でルーに繋がったんだろうな!」


 慌てて話題を変える。


「店主もよくわからないとか言ってたし」

「あの方がわからないことを僕がわかるはずないさ」


 フィオの店主への信頼が高すぎないだろうか。

 疑問に思ったが口には出さない。

 凄腕の魔導師なのは何となくわかっている。


「ただ、ルーは魔力の塊だ。先ほどの道具で言わせればパスそのものに近い。だから、行き場を失った糸が記憶に新しい魔力に繋がったんじゃないかな」

「なる、ほど?」


 よくわからなかった。

 フィオも自信なさげなので掘り下げないが。


「ソラ君とルーの魔力が似てるってことはないんだろ?」

「ないはず」


 俺の曖昧な返事にフィオが小首を傾げる。


「俺はこっちに来るまで魔法とかてんでダメだったからな」

「それは覚えてるけど……。個々人の魔力を見分けるのは難しいかい?」

「俺に聞かれても……」


 魔眼を持つフィオからしたら見分けるなど朝飯前なのだろう。

 かく言う俺も今ではそれなりにわかる。


「まあ、難しいんじゃないか? 本来、触覚で知覚するものらしいし」

「それもそうか」


 ユーヤも昔は一般人と変わらなかったのかとサラッと失礼なことを言うフィオ。

 いや間違ってはいないけど。

 こっちに来てからの俺は恵まれすぎていた。


「凡人歴の方が長いっての。むしろ、今の状況がおかしいから。中々慣れなくて困ったわ」

「僕からしたら何も変わらないんだけどね」

「俺からしたらフィオは変わりまくったけどな」


 魔力供給、そんな儀式は今もまだ続いていた。

 最近、慣れすぎてテレも来なくなってきた。

 おかしい……。慣れてはいけないだろ。

 常識が歪められる。でも、考えてもどうにもならないから目を背けるしかない。


「どこかの誰かさんの影響を受けたからかな」

「きっと素晴らしい人物なんだろうな」

「ふふっ、そうかもしれないね。なにせ影響を受けたのは僕だけじゃないのだから」


 きっとレイナのことを言いたいのだろう。

 魔法を扱えるようになったレイナは日夜練習に励み、今では元々の名声に違わぬレベルとなっていた。

 元々、勉強熱心だった上に性格以外は器用である。

 努力が一気に身を結ぶのも当然だろう。

 嬉しいことだ。


「ソラ君もきっと素晴らしい人なんだろうね」

「いやー、どうかな。人前では猫かぶってるけど中々どうして面倒臭いやつだからなあ」

「ユーヤにだけは言われたくないと思うよ」

「はっはっは、ソラにもよく言われたわ」


 ついでに共通の友人たちにも言われた。

 自覚しているから放っといてくれ。


「まあ冗談はともかく面倒見の良い奴だな。料理も美味いし、あれで結構モテてよ」

「うん、モテそうだよね。不思議とってニュアンスだけど」


 言われて考える。

 背は平均程度でスタイルは細身だけど良い。加えて顔も整っている。


「確かに」


 ポンと手のひらに拳を落とす。

 長い付き合いだ。昔の姿がどうしても認識を惑わす。

 あえて、そのように見ていた節もあるが。


「これだからユーヤは」

「はははっ、何かソラの言い方に似てる」

「相当呆れさせてきたんだね。同情するよ」

「それなりにな! ……はっ、まさか俺がいなくなって清々したとか思ってないよな!?」


 思われていたら泣くぞ。


「そんなわけないだろ。……そういえばソラ君はユーヤがこっちに来てるのは知ってるのかい?」


 フィオの問いに目をパチクリと三度開け閉めする。


「知らないな」

「言わなかったの?」

「言う暇がなかった」

「じゃあ別れは」

「当然してない。突然のことだったからな」


 あえて堂々と告げる。


「そんなの心配してるに決まってるじゃないか……」

「やっぱり?」


 俺の返しにフィオは大きくため息を吐くのだった。

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