掛け間違い

 気を取り直して通信機の使い方のレクチャーを受ける。


「使い方は簡単じゃ。通じたい相手をイメージして魔力を流し込めば良い」

「イメージって顔を思い浮かべるだけで良いのか?」

「正確には魔力をイメージするのだが、そこら辺は大雑把にできるからの。とりあえずやってみれば良い。お主なら大丈夫じゃろ」


 電波は自分次第なのか。

 通りで街中でも見かけたことがないはずだ。

 マジックアイテムの中でも一般人が使えない部類のものだろう。


(ただ空がいるのは地球なんだよなあ。通じるんだろうか)


 疑問を抱えつつも目を瞑り、空の顔をイメージする。

 物心ついた頃からずっと隣にいた幼馴染だ。あっさりと輪郭を捉える。

 魔力かどうかはわからないが、掴んだ感覚があった。

 パスが繋がる。


『…………』

「…………」

『………………」

「………………」


 箱の頭上に映し出された画面、そこに映っている人物はいつもと変わらず無表情だった。


「ユーヤ」


 フィオが名前を呼ぶ。

 言いたいことはわかっている。


「ルーと繋いでどうする」


 画面に映っている少女ーールーは事態を飲み込んだのかフリップを掲げる。


『はろー』

「は、はろー」

『ソラさんとは連絡つきましたか?』

「あー、いや、まだというか今繋ごうとしてたというか」

『なるほど』


 しどろもどろだったにも関わらず察してくれたらしい。できる子だ。


『失敗したわけですね。それともお試しですか?』

「うん、失敗したみたい」


 やはり地球への通信は難しいのか、俺の操作が下手くそなのか。

 ただ、


(掴んだ感触はあったんだけどなあ)


 説明は難しいが空へとラインが繋がった感覚はあったのだ。

 でも、結果としてルーに繋がってしまった。

 空とルーが似ているならまだしも見た目や雰囲気からして全然違う。


「びっくりさせちゃったよな。ごめんよ」

『いえいえ、稀有な体験にワクワクが止まりませんよ』


 あいもかわらず平坦な表情だが、書かれた文字は普段よりサイズが大きかった。

 外に出られないこともあり、刺激に飢えているのだ。


「それなら良かった。じゃあ切るな」

『はい! 頑張ってください!』


 魔力の供給を止める。

 青白い光に包まれていた箱は静かに通信を切る。


「これ結構難しいな」


 店主に軽口を叩くが反応がない。

 不自然に思って振り返ると、


「ど、どうしたんだよ」


 目を見開き、口をワナワナと震わせていた。

 それほど驚くことが……って、


「ルーのことに決まってるじゃん!」

「ルーがどうかしたのかい?」


 同じく店主の反応に驚いていたフィオが聞いてくる。


「どうかしたもないだろ! 店主はルーを、幽霊を初めて見たんだぞ!?」

「……いや、そんなはずは」

「レイナの件の時だって別の部屋に居てもらっただろうが! 会ってないって!」

「確かにルーには会っていないが……」


幽霊を見てこれほど驚くわけがないはずなんだとの呟きは俺の耳には届かなかった。


「その、店主? さっきの子は……えっと、まあ見なかったことにしてくれ! 頼む!」


 店主がルーを誰かに売ったり、ましてや自ら実験材料にするとは思っていない。

 けれど、なあなあにしておく訳にもいくまい。


「…………あ、ああ」


 少しして幾分か落ち着きを取り戻した店主は頷いた。


「幽霊の存在はまだ表に出したくないからの。誰にも口外せんよ。……それはそうと」


 店主は落ち着きのない様子で、


「か、彼女……ルーといったか。彼女とはどのようにして出会ったのだ?」


 質問は想定の範囲内のものだった。

 店主もこのような店を開いているのだ。興味を持つのは当然。

 ルーとの関係に言えないことはないので一から話す。

 それを店主は何故だが懐かしそうに、それでいて嬉しそうに聞いていた。

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