偶然も必然も

 連れてこられたのは“例の店”だった。

 フィオが律儀にノックをするが、中から返答はない。いつものことだ。

 店主曰く外の音は遮断しているらしい。

 ならインターホンか何か用意しろと。


「お邪魔しまーす」


 悩むフィオの代わりに扉を開く。


「おおっ!? お、お主達か!」


 いつもなら無駄に堂々としている店主が珍しく慌てている。

 手を後ろにやっているので何かを隠しているのだろう。


「珍しい組み合わせじゃの! 何か用か!?」


 あまりにわかりやすい。

 チラッと見えた感じ写真立てっぽいが……。


「もしか「通信機がないかと思いまして寄らせていただきました」

「そうじゃったか!」


 フィオに口を防がれた俺は同意するように頷く。


(デリカシー)


 フィオが非難の目で見てくる。

 確かに隠している物について尋ねるのは良くない。

 反省。


「え、ええっと、どこにあったかのー?」


 わざとらしく呟きながら奥へ。

 写真立てを置くつもりなのだろう。

 余計なことを言うなよと目で語るフィオ。

 流石に昨日の今日でやらないって。

 信用のなさに少しだけ落ち込む。


「あったあった! これで良いかの?」


 実際に物も奥にあったようだ。

 正方形の黒い塊を机の上に置く。片手に乗るサイズだ。

 しかし、魔力こそ感じるがとても通信機には見えない。

 ルースの記憶から類推できないので、近年の技術が使われているのか。


「これは……ちょっと僕の知るものとは」


 フィオにも見覚えがないらしい。

 もしや骨董品か?

 店内には古めかしい武具も多いのでありえない話ではない。


「見た目はシンプルだが機能は一般的な物より優れているぞ。何せプロトタイプだからの」


 ふふんと胸を張る店主。残念ながら凹凸はあまりない。


「量産品とは違って超遠距離間の通信も可能! 指定人数も最大100人まで……魔力がごっそり持っていかれるが。加えて相手側の映像を映すこともできたりするのじゃー!」


 これも使用者の魔力が無茶苦茶必要だけどと茶目っ気たっぷりに笑う。

 ハイテクはハイテクだが、大抵の人には使えなさそうだった。


「結界とか探知魔法に引っかかることは」


 フィオの質問に深刻さを悟ったのか店主の目つきが変わる。


「並大抵の物には引っかからん。あくまで既存の術なら話だが」

「どうなんだい」

「どうって……」


 フィオの質問に困ってしまう。


「なんじゃ、使いたいのはユーヤか」

「ええ、とある人物の安否が心配でして」

「ちょ、ちょっと嫌な予感がしただけだって! 言い方が深刻だぞ!」


 しかし、店主の顔つきは変わらない。


「ふむ……。楽観はできぬかもしれぬな」

「はっ!? 店主まで!」


 二人揃って不安を煽ってくる。

 冗談でないのはわかる。わかるからこそヘドロのような違和感が胸まで込み上げてきた。


「ユーヤ」

「な、なんだよ」


 落ち着いた声色には鋭さが含まれていた。


「他の誰でもないお主が感じ取ったのならーー」


 ーー絶対に目を逸らすでない。


「ッ!」


 言葉に重さがあった。

 それが真実だと示すかのように。


「この世には偶然も必然もある。そのどちらだとしてもお主は感じ取れるのじゃ」


 俺は、そしてフィオも押し黙る。

 明らかにおかしい。買い被りすぎだ。俺を何だと思ってやがる。

 頭に浮かんでは消えていく文字列。

 英雄の記憶の存在が否定させてくれなかった。


「知ってるのかよ……」


 思わず声が漏れる。

 だが、店主は目を伏せ、首を横に振る。


「少しだけだがの。長生きしてきた分だけ世界の広さを知ってる」


 答えになっていない。

 それでも店主の寂しげな、それでいて泣きそうな表情を見てしまっては二の句は継げなかった。

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